☆☆☆
旅程は5日を過ぎた。
カンボジアのシェムリアップから国境を越えてハノイへ飛び、ベトナムきっての保
養観光地ハロン湾へやってきた。空路2時間、陸路(バス)3時間半の長旅でホテル
に着いた時は深夜になっていた。
ハロン湾は「海の桂林」と呼ばれる世界遺産に登録された観光地で、ベトナムを訪
れれば欠かせぬ名所である。しかし、深夜の街とはいえ窓越しに流れるように映る街並
みはどことなくしんみりと漂うものを感じた。私たちの宿泊したホテルもここではハ
イクラスと聞いていたが、客あしらいにそれらしさは無く少々違和感があった。
中国系の経営であったそのホテルではPCのプロバイダーも中国系で私のPCで繋ぐ
日本のサイトは文字化けがしてしまった。
相変わらず、翌朝の散歩で街を歩きに出たのだが案の定見た目、街は荒れていた。
先ず若者を呼び込む店、集まりそうなディスコなどの店舗は跡形があるのみで、殆
ど休業しているようだったし、大々的に開発した「ロイヤル・アミューズメント・パ
ーク」さえも汚れていた。何より海岸線に沿って林立するホテルは灯のついていると
ころが少ないのだった。
世界的不況とは言え、此処はそれを尻目に繁栄し続ける中国の商圏であり、進出業
者も大半が中国である筈なのだが、と思わざるを得なかった。
朝陽が眺める海の左サイド、ホンガイ島のはずれから上がってきた。静かな平らか
な海を輝かせて、赤いまん丸の姿が美しかった。そしてこの日は日程の大半をこの湾
のクルーズに費やすことになっていた。
朝食を済ませてバスに乗り込むと、海からの朝陽を浴びながら海岸の通りを走って
行く。
ホテルから少し南下したところにクルーズ船の乗り場があり、大小何隻かの船が出
航を待っていた。
私たちのグループはその中の一番大きな船に乗った。船の定員は250名だったの
にグループは40名、ガラガラ、ユッタリで贅沢なクルーズである。最上階のデッキ
に上がってみると、北の方には海峡に掛かった吊り橋が見えていた。橋の向こうが内
海になっており、こちら側はバイチャイ、橋を渡った方がホンガイ地区である。
船は見えている吊り橋とは反対側、南の方へ向けてゆっくりと動き出した。そして
すぐにクルーズの見所、奇岩が聳える島々を見渡す風景が展開し始めた。「海の桂林
」と呼ばれるのは、この岩脈が中国華南地区の桂林から続いているらしきこともあっ
てのことである。
穏やかな海に浮かぶ島々は、確かに数年前の旅で川を下りながら見た「桂林」の奇
岩風景と似た姿であった。ボコボコと浮かぶ島の間をすべるように進む船からの景色
は、陸で感じた雑念や喧騒を忘れさせた。
私たちはデッキに用意されていた簡易ベッドに横になり、陽を浴び風に吹かれて過ご
した。
小さな島ダウゴー島でティエンクン洞という鍾乳洞に入った。20mほどの高さの
洞がかなり続いてライトアップされ、日本でも各地にみられるような、いろいろな動
物や神がかりのものの名前が付けられた岩の結晶を見て過ごした。
下船したのはもう一箇所、小高い展望台に行列を作って400段の道を登った。そ
こからは浮かぶ島々の広がり全域が眺められた。急な登り道に掛かるあたりに売店が
あり、みやげ物を売っていたが、ここでも現地通貨表示ではあるが実際は米$で無け
れば受け取らないという矛盾な商売をやっていた。
船中でしきりに土産品などのセールスが展開されたのは、折角の寛ぎに煩わしさを
持ち込まれたようで感心しなかったが、これも商道に照らせば受け入れねばならぬも
のであろうか。それにしても、そこで捕れる魚まで売り込むと言うのは、一体どうや
って持ち帰ると言うのかと疑問に思ったが、結論は滞在中に食べる、と言うことのよ
うだった。品々にあまり気を引き付けるものはなかった。さすがに昼食はそれらの魚を
料理したものが出た。シャコ、鯛、いか、それにシャークまで船の水槽に入っていたが、
さすがにシャークまでは食膳には出なかった。
クルーズを終えてホテルに戻った後、希望者で吊り橋の先、ホンガイ地区の観光に
出かけることになった。そちらの方が歴史が古いという。
海岸伝いに繁華街のハロン通りをバスで北上して湾の狭まった処に架かる近代的
な吊り橋を渡った。橋上から午前中を過ごした青く澄んだ海が見えた。ボコボコの岩島
と観光船たちが群がるように行き交って引く波の線がキラキラと光って広がっていた。
橋を越えると、バスを降り、先ず歩いて丘の上のホンガイ教会へ向かった。それは
フランス統治時代から続く名残の協会であった。車がやっとすれ違えるくらいの幅の
道路は、今は沿道の住民たちが作業をしたり、コンロを出してお勝手代わりに魚を焼
いたりと中国的な沿道サロンの雰囲気になっていた。
鉄格子の扉を押して入った教会の構内はちょうど高台の頂点になっていてホンガイ
の港が眼下に見渡せた。余裕のある教会の敷地内に模様を施した明るいグレーの壁、
十字架を掲げたとんがり帽子の塔が清楚であった。礼拝堂は静まり返っていた。
それから坂を下って、港に通ずる丘の麓に降り、ロンティエン(竜天)寺という仏
教の寺を訪ねた。近年の観光開発に先駆けてこの海辺に、古くからの住民により開け
た街こそ、このホンガイ地区であることを主張し、また彼らの信仰を物語る堂々とした
伽藍のように見えた。
仏教寺の重層の屋根、立ち昇る香華と煙、信仰の有るや無しやを問わず動めく人々
に紛れると、ホッとしたものを感ずるのは東洋人の共感とでも言うのだろうか。たっ
た今、西洋の信仰を象徴する清楚な教会の姿を見てきたばかりなのにである。
港に近いところに2002年に建てられたという2階建ての大きなハロン市場があ
った。生活雑貨、衣料品など古い百貨マーケットと言った風情であったが、昔からあ
ったホンガイ市場と接続していて、そちらは魚介類、野菜などの生鮮食料品を扱って
いるため大規模な総合市場の機能を果たしているとのことである。地元の人々は此処
を頼りに生活資材を手に入れるのであろう。普段着の人々による活発な取引の様子が
充分見られたし、私たちのような観光客も大勢入って地域の土産品を物色している風
景が至る処にあった。はなは現地産の米で作られた「ビーフン」が一食ごとにインス
タントラーメンのように食膳に出せるパックになっているのを見つけて買い求めていた。
風次郎
ロンティエン(竜天)寺 ハロン市場
* 5.ハノイ(1)
* 風次郎の「東京ジョイライフ」ホームページのトップへ
* 『風次郎の世界旅』 トップページへ戻る
* 風次郎の『八ヶ岳山麓通信』へ
* 風次郎の『善言愛語』へ