☆☆☆
本館を出て宮殿広場に立ったのは2時を廻っていた。朝本館の右手から射していた陽がも
う反対の左後ろ新館側からに変わっていた。
エルミタージュ美術館の新館は本館から、広場を越した反対側の旧参謀本部の巨大な建物
の中に新設されている。旧参謀本部はナポレオン戦争勝利後に、アレクサンドル一世の命で
建てられ、当初は、その名の通り参謀本部や外務省・財政省などが入っていたが、現在は多
くのスペースが展示用に一般公開されているとのことである。中央門は凱旋門であり、門上
には、6頭引きの勝利の戦車像が飾られている。美術館新館は凱旋門の左手であった。
親しくなったグループの佐藤夫妻と一緒に私たちは入場券を購入、クロークを通過して行
った。だが、案内標識も不十分な上にロシア語の案内は全く解りにくく、右往左往する始末
だった。やっと4階のお目当てのフロアーを見つけて落ち着く事が出来た。しかし、ガイド
ブックをよく読むとこのことは記されているのだった。少しドジだったと思う。
もっとも3階までも美術品展示は何かと為されていて、無駄足だった訳ではない。ロシア
の新進作家の作品や、歴史的武具などの展示も観るべき面白さがあった。
お目当て四階の19〜20世紀のヨーロッパ絵画、主に印象画家の展示コーナーは、セザ
ンヌ、モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーギャン、マチス、ピカソと、それぞれに部屋を分か
ち、しかも数多くが揃えられていて、これも驚きであった。しかも、話題に取り上げられた
り、書籍に登場する絵画が沢山あった。
印象に残った名画は、セザンヌの「煙草を吸う男」、ルノワールの「ジャンヌ・サマリー
の肖像」「扇子を持つ女」ゴーギャンのタヒチで描かれた「果実を持つ女」などの人物画、
モネの「ジヴェルニーの干し草」、ゴッホの「ライラックの木」などの自然描写画である。
私達はそれぞれの部屋を、歩き尽くして鑑賞を終える事が出来た。
思えばこの一日は、まるで世界の名画が取り寄せられた美術展を観ている感じの一日で
あった。残念ながら、疲れを忘れてと言う訳にはいかなかったようであるが――。
ロシアは文学や音楽における巨匠を数多く産んだ国である。それに比べると美術の世界に
名を立てている人が少ないように思う。18世紀以降のイコン(宗教画)に傑作が多出し
ていると聞いているが、ここに集められたものは、大半がヨーロッパの国々から来たもので
ある。この国のヨーロッパ文化への憧れを感じ、かえって、だからこそ光るのだろうか。そ
して、よくぞこれだけの蒐集を成し遂げたことかと、その国威と言うか、皇帝の権威を今こ
そ崇めねばならないであろう。
ピョートル、アレキサンダーとエカチェリーナを先ずは讃えたい。
それにしてもこの美術館の大らかさは、ごく一部の部屋を除き観覧者に対してカメラの使
用を制限していないことだ。携帯やスマホの普及も手伝って、写真撮影は極めて身近な記録
の手段となった昨今では有難いことだと思う。
私とはなは親しく共にヨーロッパ絵画を鑑賞した佐藤夫妻と連れ立って建物を出た。午後
4時を廻って、宮殿広場には西陽が旧参謀本部の影を映し、少しの風が冷たく漂っていた。
凱旋門に通ずる辺りの出店に土産品を物色してたむろする人たちも、外套を着ている店の
売り手たちの前で肩をすくめているように見えた。
朝眺めた広場の中央に立つ「アレクサンドルの円柱」(高さ47.5mのナポレオンとの
戦いに勝利した記念碑)を近くに寄って見上げると、アレクサンドル1世をモデルにした天
使の像の持つ十字架が、低くなった陽の光に白く光っていた。朝の広場では、この下で軍
楽隊が、近く国家を揚げて催されるという対ドイツ戦勝70周年の式典の為の訓練をしてい
たのであった。栄えた祖国に心を傾ける誇りの行事として、そのひと時を現代のこの国の人
々も大事にしているのであろう。
○ ○ ○
4時30分に本館の入り口に集合して、市内のレストランへ夕食会に行くことになってい
た。
まだ外は明るい5時を廻ったばかりの頃から、市内の中心部にあるビルの地下のレストラ
ン「Masha and Bwar」でロシアンディナーパーティーであった。
私たちは今日美術館賞を一緒に過ごした佐藤夫妻、それに女性4人で参加していたグルー
プの方々と席を共にした。今回の旅の初めてのディナーであり、またどのメンバーも皆ロシ
ア初体験の人ばかり、思いの外まだ冬の名残がある季節感の感想から始まり、エルミタージ
ュの煌びやかさに感激冷めやらぬ思いの話しは楽しく展開していった。
メニューは簡素なものであったが、
サラダ
チキンキエフ(キエフ風カツレツ)
アップルパイのデザート
コーヒー と運ばれた。
(風次郎)
ジヴェルニーの干し草(モネ) ライラックの木(ゴッホ)
* 5.サンクトの朝へ
* 風次郎の「東京ジョイライフ」ホームページのトップへ
* 『風次郎の世界旅』 トップページへ戻る
* 風次郎の『八ヶ岳山麓通信』へ
* 風次郎の『善言愛語』へ