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ヴェネチア―4―
ドゥカーレ宮殿は広い華やかな宮殿であった。各部屋に飾られた往時を偲ぶ名画の数々を解説書を首っ引きにして観賞すること
を楽しんだ。一方で、武器の間や財宝の展示も興味深かった。また海洋国ヴェネチアにちなんだ地図の間とか羅針盤の間、そして
自治の象徴、大評議の間から牢獄への通路など興味津々と歩いた。
宮殿で有罪の判決を受けた者が牢獄に渡る「溜息の橋」は、囚人が娑婆を離れる際に溜息をついた場所と言われて有名だが、
そんなところも渡った。ということは牢獄の中も見たのだが、当初は宮殿と同じ建物にあったものを運河越しに造り替えたとのこと
である。囚人が予想以上に増えたのかもしれない?
宮殿の階段を降りて外に出ると、早朝に歩いた運河に面した側の回廊は人だかりで一杯になっている。サンマルコ寺院に入場
するのを待つ人の行列であった。私達もその列に加わり、ぐるりと廻って開け放たれた正面の入り口から中へ入った。
広場から眺める寺院はいかにも町のシンボル、守護聖人のマルコ、そしてマルコのシンボル有翼の獅子像、丸いクーポラの並
びと正面ドームに施された沢山のロマネスク、ビザンチンの金色に輝く彫刻が目を惹きつけて止まない。それにも増して、内部に
も溢れんばかりのモザイク画が施され宝飾の輝きに驚嘆してしまう。モザイク飾りは床のタイル1枚1枚にも行き届いている豪華さ
だった。
見学を終えてサンマルコ広場を見渡すと、観光客は後から後から広場を埋め尽くさんばかりに増えているようだった。そんな中、
彼方此方に人だかりを作るワゴンの売店と、異種多様な国々の人達が取り囲んだ国際交流風景が好もしく見える。
人気の無い朝の広場はとても広大に見えたのに、人で埋まると思いのほかの感じを持つ。まさに広場の両側の新旧政庁の間に
作られた市民の大広間である。
「世界で一番美しい広場」「大理石造りのサロン」と呼ばれるそうだが納得のいく光景である。ナポレオンもそこは見逃さず正面
中央に「ナポレオンの翼壁」と呼ばれる回廊つきの建物を残したのは抜け目ない。永遠の観光地に自分の名を刻んだということ
なのかもしれない。
すでに道連れとなった八王子の安江さん御夫妻と一緒にリアトル橋を見に行くことにした。狭い路地は朝の時とは違って人でいっ
ぱい。それに道沿いの店舗がすべて開業中だから人の流れに方向性も無い。道路のところどころに設けられている『PER S.MRCO』
の表示板の道しるべが解りやすかった。人と人のぶつかり合いを繰り返しながらも抜け出たのは、丁度郵便局(元ドイツ人商館)の
ところ、目前のリアトル橋を眺め皆で写真を撮った。
太陽の輝く下で眺める鮮やかな白のリアトル橋はここも人がいっぱい。私は早朝のリアトル橋を渡っているので何となく同行の3人
を案内する形になったが、あらためて白日のもとで見る橋は思いのほか大きなもので、両側に手摺の付いた階段式の通路を登り、
中央のドーム型の外壁に丸屋根の店舗を覗いて歩いた。
1264年に建設された古い木造の橋が、伯爵の行進の際に殺到した群集の重みで落ちたので、大理石で造りかえられたとのこと、
いかにも装飾の美しい橋である。
狭い街路の隅々まで、どこもかしこも国際的な人種の入り乱れているヴェネチアであった。橋を渡って先の河岸に続くアーケードと
屋台の通りをみやげ物など物色しながら歩いた。対岸がヴァボレットの船着場、こちら側がゴンドラの乗り場とあっては、岸を歩く私
たちも人波にもまれて叱りである。
再び小路を潜り抜けるように通ってサンピエトロ広場に戻った。すでに伝統を誇るカフェ、「フローリアン」、そして反対側の「カルロ、
ラヴェーナ」が白い服の楽団を入れて屋外テーブルの客を楽しませている。いかにもヴェネチアを見る感じがする。
私たちもサンマルコ小広場から、朝見学したドゥカーレ宮殿の回廊をもう一度歩いて、ホテルダニエリのロビーでコーヒータイムを
過ごすことにした。ヴェネチアのせめてのひと時、「国際スターのように‐‐‐」などと洒落を飛ばしながら豪華絢爛といわれるロビーに
寛ぎを求めたのである。
はたして、フロントの案内がとても親切であったし、幸いにしてロビーの客も少なく、ゆったりとしたひと時のエスプレッソが良い思い
出になった。
ゴンドラにも乗ってみた。
溜息の橋の下を流れる運河の河口あたりにあるゴンドラの溜りから島の内部の小運河をひとまわりするコースは、建物に挟まれ、
往復のゴンドラが器用に操られてやっと行き違いできるほどの狭い運河で、縞のシャツを着込んだ若い青年船頭が、いくつもの舟
を擦り抜けるように入っていった。
建物に挟まれた運河は、人の往来の激しい河岸から少し入っただけでたしかに静かではある。古めかしいレンガの壁に水音のさ
さやくような響きは何となく良かった。夜のとばりを迎える頃、灯かりを感じながら静かに進む‐‐などすれば、ヴェネチアの思い出作
りには格好であろう。幾多の解説書にあるように、船頭が耳に心地よいカンツオーネでも歌いながら舵を取るなどは素敵な夢だが、
なかなかそうはいかない。残念ながら真昼間の明るいヴェネチアで頻繁にゴンドラ同士の行き違いに気をそがれる遊覧では、カン
ツォーネも無く、船頭同士のお互いに大切な船を守る衝突警戒を発する奇声を沢山聞く妙な遊覧ではあった。
大運河越に、終わりに近い午後の陽を浴びながらヴォヴァレットで岸を離れる。海風がどこからかやって来たように顔や肩を取り
囲んで流れる。気持ちのよい離島だった。
ヴェネチアの寺院の移り変わっていく風景の間を、ヴォヴァレットは過ぎて行く。たった2日のヴェネチアではあったが、濃い思い
出を脳裏に溜め込んで、船は中央駐車場に向かっていた。
駐車場には次の街フィレンツェからバスが迎えに来ていた。もう一度ヴェネチアと大陸を繋ぐ長い橋を渡り、ヴェネチアを後にす
るのであった。
橋を渡りながら、どこかに「古い時代から現代に戻る」といった錯覚を感ずるのであった。
ヴェネチアの象徴ゴンドラ
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