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風次郎のColumn『東京楽歩』 (No721T−184)
                                                                                                 

                          
                                 朝の神楽坂                    毘沙門天
                                             

                  神楽坂                                   2022.10

                        神楽坂

                         秋は外歩きに限る。
                        暑い長い夏だったが、中秋の名月が観れた。やっと10月も中旬になって澄んだ
                        青空を眺められるようになった。秋らしい空と言うのは、朝の空気がヒンヤリとし
                       て青空が広がり、午後になれば何処からともなく鱗雲が湧いて広がっていくような
                       時期である。

                        金曜日の朝、昼に日本橋に所用があったので9時過ぎに家を発って中央線に乗り
                       中野から早稲田に向かった。良い天気だし、久しぶりに早稲田から神楽坂を歩いて
                       見ようと――。
 
                        東京はどこへ行っても寺が散在しているように思う。寺町巡りも老域に達した小
                       生には寛ぎになるのでよく訪ねる。この界隈は小さな寺や、喜久井町から先にかけ
                       ての家並は文人たちの屋敷跡を訪ねて良く歩いた。

                        晴れた朝だったから神楽坂までは早稲田通りを歩いて行くことにしたのだ。地下
                       鉄は後方車両に乗って早稲田駅で降り早稲田通りへ出ると、そこは夏目坂の入り口
                       である。
                        歩く方向からは早稲田大学のキャンパスは後方になるが、この辺りは学生町で、学
                       生たちを相手の生活用店舗が多く、したがって商店の扱い品目も価格も庶民的で馴
                       染める生活匂のある佇まいである。コロナ禍といえ、そんな空気を味わうのも悪く
                       はない。通りの様子を眺めながら、喫茶店でコーヒーを一杯楽しんだ。
                        少しの坂道をのぼって歩くと漱石終焉の地(漱石記念館)、に向かう三差路があ
                       るが、今日はやり過ごす。そして早稲田町から榎町に変わる外苑東通りの交差点を
                       渡り、間もなく早稲田通りの終結する突き当り、牛込天神町の坂を上って行けば右
                       手新潮社、旺文社に向かう牛込中央通りの三叉路から先が神楽坂である。

                        神楽坂も昔とはずいぶん変わったということになろうか。
                        神楽坂では毎秋「まち飛びフェスタ」と称して地域のお祭りが催されている。こ
                       のはじまりは、「まちに飛び出した美術館」としてアートエキシビジョンだったの
                       だが、24年の回を重ねて伝統芸能、コンサート、ストリートパフォーマンスなど
                       が企画に加えられ、今年は10月15日から11月3日まで繰り広げられている。
                        フィナーレは700mある神楽坂通りに紙を敷いて作った、1日限りのロングキ
                       ャンパスに参加者が自由に絵筆を握って描く「坂にお絵かき」と言うことだ。
                        元々紅葉や漱石が逍遥し、抱月、須磨子といった大正芸能を飾った人々の時代か
                       ら粋筋が歴史を綴って来た土地柄だけに、現代でも能楽(矢来能楽堂が新潮社の近
                       くにある)長唄、新内、常磐津、小唄・端唄、筝・尺八、三味線、日舞など伝統に
                       携わる人がたくさん暮らしているという。さらに芸能だけでなく遠州流茶道をはじ
                       め日本独自の文化をつたえている人々がここに集まり、お茶屋好みに限らずまさに
                       粋筋文化の漂いを残す地域である。その伝統に纏わる催しがこの祭りの間繰り広げ
                       られており、鑑賞したり、催事体験をすることが出来るのである。
                        毎日曜日はそのイベント目当ての人出で溢れるようだが、週日の午前は比較的楽に
                       歩ける。
                        小生のように、そこに漂う風に身を任せて満足する輩であっても、心地良い秋の
                       陽を浴びながら、ぶらりと歩くには恰好な舞台装置である。
                        いつものように能楽堂に立ち寄り毘沙門天境内を眺め、丁度和の伝統工芸「組紐
                       」の展示をしていた神楽坂ギャラリーを見学した。

                        ここでも、一人歩きの老人は、通りの喫茶店でコーヒーを味わって去るのみだが、
                       この街には歴史に醸し出される日本の良さがまだ残っていると感じさせられる。
                        もう自分にとっても昔の話になってしまったこの街の料理屋での酒宴の時などを、
                       懐かしく思い出すのであった。
 

                                                                       風次郎                                                                      

                                  

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