☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
  ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
       
風次郎のColumn『東京楽歩』  
  (No342T−73)

                                       南天寮の庭と隣家の屋根(2014.2)                                                                                                    

                                                                                   2014年3月23日
          東京楽歩(No73)雪(4)南天寮見参

                                山梨県の降雪が酷かったようで、テレビは盛んに1mを超える甲府の積雪を伝え、道路
                               が使えなくなって孤立してしまった山村のことなどを報道していた。
                                雪への備えが行き届いていない関東各地は大混乱で、中央線もご多聞に漏れず1日中列
                               車が止まり、中央道も閉鎖されている。
                                富士見の「南天寮」もどうなっているか心配だったので親戚に電話を掛けると、生活に
                               欠かせない主要道路の雪掻きが始まっているが、まだ車が動かせない状態だと言う。
                                南天寮は表通りから導入路が40m程あるのでとても近づけないらしい。
                                「まあ、仕方がないか」と諦め気分で高を括った。

                                ほぼ全通するまでに鉄道は2日間、高速道路は1週間かかった。
                                鉄道がやっと通じたので「南天寮」の様子を確かめに出かけたのは2月27日だった。
                                恒例により1番電車を高尾で乗り換え、「甲府行き」「松本行き」と乗り換えていく。
                                高尾からの電車には冬であっても山歩きに出かける乗客の姿を見かけるのが当たり前な
                               のだが、さすがにこの朝は一人もいなかった。
                                乗客は一つの車両に2〜3人だけの閑散とした早朝の電車は直ぐにトンネルに入り、相
                               模湖からは山間の川に沿った路線を、いつもと同じように進んで行く。外はまだ暗いまま
                               で、車窓のすぐ外には雪に覆われた土手ばかりが続いているようだった。
                                大月あたりになると、路線の両側に薄黒く伸び上る山の端が判るほどに空が白み、山間
                               を下っている谷の雪の様子も見られるようになった。
                                山梨県全域が災害救助法を適用されていたからと、その気分で眺めるのだが、この山間
                               も例年雪が積もる処だから、豪雪とは感じられない在り来たりな感じがするほど、雪は思
                               いの外少なく見えた。
                                やがて、笹子トンネルを抜けて、列車は勝沼から甲府盆地に入って行く。だが、山梨市、
                               甲府、韮崎と全く拍子抜けするほど雪は少なく、窓から眺める道路や街の様子にも、北側
                               にやや分厚く残る雪を認める程度である。
                                降った後、この1週間の暖かさが、どっと積まれた雪を片付けたのであろう。
                                「まさに天の恵みとは有難いものだ。」と、驚いたり胸を撫でおろしたりするのだった。
                                白い世界ではあるが、大雪の後と言った印象は思ったほどは無かった。
 
                                しかし、それから先、甲府盆地を離れた列車が坂を上りはじめ、車窓に甲斐駒ケ岳の荒
                               々しい北壁と、八ヶ岳の姿を見せ始めると、路線の近くも雪景色の様相が一変した。
                                日野春、長坂と線路脇も眼に見えて雪の厚みが増し、小淵沢の駅ではホームにも中央に
                               掻き寄せられた雪が1mを超えて積み上げられているのだった。

                                日の射さないどんよりした朝だった。
                                7時を過ぎると、通勤通学の乗客で各駅は賑わって、狭くなった駅のホームはそれらの
                               人々がこぼれそうに溢れている。
                                列車が駅に着いてその乗客が入ってくると、人で満ちた車内は活力を得た生活の場のよ
                               うに空気が和むように思う。そんな時、ローカル線の互いに馴染んだ感じを味わうのであ
                               るが――。
                                雪支度は昔は黒い外套だった。今はカラフルな化繊のジャケットが多い。靴も黒いゴム
                               長一色から、滑り止めの付いたガッシリしたものが使われ、バラエティーに富んでいる。
                                時代は流れた。だが、自然の営みは変わらず、冬は雪が降る。おして、時々大雪も来る
                               のである。

                                信州に入ると余計に雪は深々と見えた。
                                信濃境から2つのトンネルを抜けて、立場川に架かった高い鉄橋を越えながら、車窓に
                               写る瀬沢新田部落を見下ろすと、真っ白な八ヶ岳の下にボコボコとした民家の屋根がスッポリ
                               と埋もれているように、雪をどけられた道路だけがくっきりと黒い線を描いているように見えた。
                                雪は深い。
                                列車は富士見駅に着いた。
                                学生たちが沢山降り、私も紛れホームに立った。また別の学生や通勤の客が沢山乗って
                               いく。
                                ホームはそんな乗客達がやっと入れ替われるほどに狭くなっている。積み上げられた雪
                               は、小淵沢よりさらに高くなっていた。
                                駅前広場に出ると、除雪は行われているもののまだ真っ白な雪の原であった。
                                道路脇に除雪された雪がうず高く積まれ、人通りも無い商店街の入り口も狭い雪の間
                               から覗いているようである。
                                私の出で立ちは、厚手のキルティングジャンバーに登山靴。南天寮の玄関は表通りから
                               入り込んでいるので、その間の雪をラッセルしながら歩く覚悟の支度と言ったところ。
                                人気のない通りを5分ほど歩いて行った。
                                思った通りの深い雪に、人の足跡さえない入り口に通ずる道が見えてきた。この日のど
                               んよりとした空は、いかにも又雪を降らせそうな雰囲気を齎していた。
                                「やれやれ80センチはあるぞ!」と、気合を入れる。「これでも大分融けて、少なく
                               なったのだろうなー」と、感慨も込上げる。
                                私は立ち止まって、一歩づつ雪を踏み固めつつ高い積雪の上へ登り、更に一歩一歩と進
                               み始めた。登山靴で正解だった。長靴よりもしっかりしたラッセルが出来た。
                                入り口の近くにある精密機械の工場の窓から、親しくしている工場長が、
                                 「スコップを貸そうか?」と声を掛けてくれた。
                                 「有難うございます。とりえあえず玄関まで行けば、道具はありますから!それにして
                               も、えらく降ったもんですね!」と方言調で挨拶を交わす。
                                彼も工場の周りの雪を少しづつ、毎日掻いているのだと言った。
                                私のラッセルは30分かかった。
                                幸い、家の中は安泰で、周囲もプラスチックの波板を載せた一坪ほどの下屋が重い雪に
                               潰れかかっていたのみだった。
                                先ずは、水道を出すため、元栓のある場所までの雪を退けなければならなかった。玄関
                               先からほんの5m先なのだが、雪の壁を掘るようにして、その蓋があくまでまた30分か
                               かった。電気は問題ないのだが、ガスは風呂場の外側にあるタンクと結ぶ元栓を開けねば
                               ならない。玄関から建物の壁に沿って10mは雪を退けねばならないので、これは後回し
                               だ。
                                さて、郵便配達の人も玄関にたどり着けず、持ち帰っているに違いない。
                                私はラッセルしてきた表通りからの踏み跡を、せめてもの広さ、人一人が通れる分道を
                               開ける作業に取り掛かった。これには1時間以上かかった。
                                それらは、私の作業量としては、その日の限度に思われた。雪掻きは腰にくる。

                                家の中に入り、部屋の戸を開け放って、廊下から庭先を眺めると、白樺林の向こうに隣
                               の家の北屋根が見えるのだが、軒と地面が繋がったスロープのように、また2階の北窓は
                               半分が雪で隠れて見えた。白樺林は幹の先に細いボウボウとした枝先が寒々と、そして、
                               灰色の空からは待ち構えていたように雪が舞い降りはじめた。
                                「また降られたのでは、たまらないなあー」 
                                私は一汗かいた体を拭いて、再び身支度を整え退散することにした。「雪に埋まってい
                               ることだけで、他に異常のないことを確かめれば、それで良いではないか」―と。

                                駅の売店で暖かいそばを食べた。
                                胃袋に沁みていくように旨かった。
                                大雪の見参には相応しい時を過ごした感があった。
                                                                                風次郎                    

    
駅のホームは雪の山              雪に埋まった街

メルマガ・風次郎の「東京ジョイライフ」「東京楽歩」No74へ 
メルマガ・風次郎の「東京ジョイライフ」トップへ
風次郎の「東京ジョイライフ」ホームページのトップへ
風次郎の「八ヶ岳山麓通信」のトップへ
風次郎の「世界旅」へ