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風次郎のColumn『東京楽歩』
No225(T−046)
富士見岳頂上と肩の小屋から剣が峰への登山口(111003)
2011年10月22日
東京楽歩 (46) 乗鞍と西穂高行(11.10.02~4) その3富士見岳と魔王岳
他の3人の仲間はバスターミナルで暖を取って過ごすということになって、私は独
りで富士見岳へ向かうことにした。
周囲の人たちもその場を去って行き、富士見岳の登山口は私独りになっていた。
私は登山道を歩き始めた。案内には30分の登りとあったから、風に飛ばされたり
しなければめったなことは無かろうと思った。ただ、視界がほとんど利かず、足元を
良く見て歩かねばならなかった。
畳平から近い峰で大勢が歩いた登山道だろうから、道を外れることは無いだろうと
思ったが慎重に登って行った。何しろ標高3000mを歩くのは何十年ぶりなのである。
風は冷たかったが心は嬉しく明るかった。
乗鞍岳(のりくらだけ)は、飛騨山脈(北アルプス)南部の剣ヶ峰(標高3026m)
を主峰とする山々の総称である。朝日岳、摩利支天岳、富士見岳、屏風岳など2
3の山があり、その裾野は広大で形は隣の山、御嶽に似ている。山名の由来は、古く
「鞍ヶ嶺」と呼ばれ、姿が馬の鞍に似ている事から名付けられたとされている。
マグマに伴う噴火活動が、9000年以上前に剣ヶ峰で起こり、火山灰の噴出と溶
岩流の流出があったそうだ。また、約2000年前には恵比寿岳で発生し、火山灰の
噴出と溶岩の流出を起こしているとのことである。火山性の地震群発は現在でも観測
されているが、活火山としての活動力は今は失っている山である。
私には乗鞍スカイラインが開通したばかりの頃、家族でやって来て、まだ5歳だっ
た長男を連れて剣が峰に登った懐かしい思い出があった。しかし、その時は天気が良
く、素晴らしい景色を山頂から眺めた事の他、ほとんどの記憶は失せていた。
風は相変わらず西側、鶴が池の方からガスを伴って吹き上げている。波が寄せるよ
うに1〜2分間隔で強烈に巻きついて顔を打つように吹いては抜けて行く。帽子を取
られないように、頬冠りの手拭の上から押さえつつ視界を定めて進んでいった。
畳平が標高2702mであるから富士見岳山頂2817mまでは115mの標高差
に過ぎない。いかに視界が悪くても案内にある30分歩けば頂上に着けるだろう、さっき
見た風下に当たる東側、乗鞍高原の方は視界が良いのだから上空は晴れているだろう
などと想像しながら歩いた。
富士見岳など、好天の日ならば畳平からすぐそこに頂上も見え、どうと言うことの
ない、剣が峰へ行く中途のピーク位にしか映らない峰と思われる。だが、天候の崩れ
る山は厳しいものなのである、と言い聞かせつつ歩いた。
私は、むしろ少しの荒れ方に快感を覚える思いでいた。確かに手は冷たく、眺望も
無い、それを快感とは言えまいが、「山に来た、高山を歩いている」と言う充たされ
た境地を楽しむ喜びがあった。岩に張り付いた霧氷を美しいと見る余裕もあった。
登山道は徐々に傾斜度が高まり、岩場に示された道標を進むたびに葛折を繰り返し
たりした。
5m進んでは強い風に背を向けて深呼吸をしながら進んだ。前後4〜5mの先はガ
スの飛び交う以外何も見えなかった。
私はただ富士見岳の山頂を目指した。思ったより長い時間歩いているような、次第
に寒さと風の中での厳しさも感じ始めた。だが、あたりは暗くも無く、白いガスが激
しく飛んでいくだけで明るく、不安感は無かった。
2度ばかりリュックを地面に降ろし、岩に張り付いた霧氷の写真を撮った。
途中誰にも会わなかった。丁度30分歩いたら富士見岳の頂上に着いていた。
風とガスばかりの中に霧氷で固まったような丸いケルンがあった。
だが、そのピークの向こう側は打って変わったように、晴れている感じに見えた。
風は強く吹いているが、山頂に立って見ると、そちらはガスが無いから視界が開けて、
見下ろす輝く秋の山風景であった。どうやら西の風が運んでくる風が乗鞍山頂の各ピ
ークの懐斜面でガスを伴って、斜面で荒れている状態のようだった。
富士見岳の頂上から西側を眺めると、不動岳との間にある盆地のような不肖ヶ池こそ
霞んでいるものの、そこを囲んだ南側の魔利支天岳には宇宙観測所がすっきり見えて
いた。
魔利支天岳に通ずる登山道を行く人の姿も何組か見えた。ただその先の剣が峰方面
はやはりガスが荒れて吹き巻くっているのだった。
富士見岳の登頂達成感はあった。
私は南側の見通しの良い登山道を下って先へ進むことにした。斜面の岩原に整備さ
れた登山道は楽な下り道だった。右手西側から富士見岳を巻くようにして、畳平から
魔利支天の観測所へ通じて来る広い道との合流点まで尾根伝いの登山道を降りていく
と、そこから先の尾根の南側に肩の小屋へ向かう登山道があった。そこは明るく薄日
が射しているようにさえ見えた。尾根が風を遮って、ガスは北側から上空に吹き上げ
ていたのだ。
私は時計を睨み、肩の小屋まで行って見ようと歩を進めた。
その分岐点から肩の小屋までは400m程の平坦な道であった。南側の有名な大雪
渓のカールには夏に解け切れなかった名残の雪が少し見えて広がっていた。北斜面に
あった張り付いた霧氷は南斜面には無く、眼下のカールは穏やかに下方の乗鞍高原ま
で続いている。
尾根を越えていく風は、乱気流を時々私の身体に巻きつくように吹き寄せてきたが、
ガスを伴わない分冷たさは無く早足で歩くと少しの汗ばみを感ずる程だった。
肩の小屋に着いた。再び先の視界は悪くなった。
剣が峰まではまだそれから朝日岳を越えて進まねばならないのだ。肩の小屋からそ
の方面へ向かう標識が立つ登山道の入り口からは50分と書かれていた。風に流され
るガスの中に紛れて行く先を行く登山者が見え隠れしていた。
私は仲間の3人と約束した時間を経過しないように、別れて最大の45分を経過し
た時点で剣が峰入り口の登山道から畳平へ引き返すことにした。
○
再び大雪渓カールを見下ろす道を魔利支天との分岐に戻り、観測所へ資材を運ぶや
や広い道路を横切って、不肖ヶ池の脇を畳平へ直行した。不肖ヶ池には殆ど水が無か
った。
窪地であるから風も穏やかで、緩やかに流れるガスによって、西側のお花畑に向か
う散策路が見え隠れしていた。
携帯で3人に連絡を取ると、バスターミナルから直前北側の魔王岳に登ろうと、タ
ーミナルを出るところとの事であった。私も後を追うことにして、皆で小登山を楽し
むことになった。
魔王岳は2760mである。広い駐車場を隔てた北側にピークが見えて、観光客が
大勢登山道を登っていた。10分ほどで頂上に着いた。私は後追いだったから、そこ
で他の3人と合流した。
やっと薄日も射し始めたが霧氷は解けきれず、薄白い岩肌の広がりの中で、3人は強
風に寒がりつつも写真を撮り合ったりしていた。
頂上には数箇所移動して周囲を眺める程の広さがあった。西側恵比寿岳やその間の
亀が池は眺められたが、北側に展開してあるべき焼岳や北アルプス連邦のパノラマ風
景は全く見えなかった。
強風は相変わらず止まず、一回りして下りていく他の観光客に私たちも従った。
バスターミナルに戻り、みやげ物を一渡り観て廻った頃を見計らって帰路のバスに
乗った。車中は乗客の「寒い寒い」の言葉で溢れていたが、私はせめても、肩の小屋
まで行ってきたことに満足していた。そうは言ってもこの季節になれば、この天候はむしろ
恵まれた方なのではないだろうかと、そして、思えば霧氷の美しさに触れることができた
ことを喜びにしなければと思いつつ、乗鞍スカイラインの揺れるバスに身を委ねていた。
風次郎
乗鞍大雪渓(名残の雪が少量)のカールと這松などに張り付いた美しい霧氷
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