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風次郎のColumn『東京楽歩』
(No432H−024)
白菊
東京楽歩(H-432) 私的花語り(No24) 白菊と「庭の千草」の歌 2016.冬
昨年の暮れはとても暖かかったから、いつもなら冬から春に咲く椿などが日向に早々とたく
さん花を咲かせているのを見て歩くことができた。それは新年になっても例年待ち遠しく思っ
ている蝋梅や紅白の梅の花も早々と眺めることができることに引き継がれている。
本格的な冬の寒さがやって来るのが遅かったから、それで秋の名残の花がいくつも眺められ
ることにもなって、晴れた青空の広がる午後の楽しみが続いている。
散歩道に白い野菊が土手に咲いているのを見つけた。
秋に咲く艶やかさは無く少し辺りの寂しさに影響されてはいるものの、気品は失われておら
ず、然も可愛い。
里見 義(さとみただし)の詩で歌われる「庭の千草」を呟くように口ずさみたくなった。
庭の千草も 虫の音(ね)も
枯れて さびしく なりにけり
ああ 白菊 ああ 白菊
ひとり 遅れて 咲きにけり
露にたわむや 菊の花
霜に おごるや 菊の花
ああ あわれあわれ ああ 白菊
人の操(みさお)も かくてこそ
本来、晩秋の歌であろう。遅れ咲きの野菊を見つめて憐れむ作者の感情を、少しの冷たさ
が伴う冬の風の中で思い浮かべるのであった。
或る人のHPには、この詩は人の高潔な生き方を讃美する心の内で、千草(=雑草)も枯れ
果て、虫の音も絶えた冬枯れの庭に、遅咲きの白菊が気高く、露の重みに耐え、霜の冷たさ
にも負けず、凛と咲いている情景に魅せられ、人もこの白菊のように節操をもって生きたい
ものだ、と記されていた。
しかし、この歌の原詩は、アイルランド民謡の「夏の名残の薔薇」(アイルランドの国民
的詩人トマスムーア(Thomas Moore/1779-1852)による詩を、ジョン・スティーブンソン(
Sir John Stevenson/1761-1833)が作曲した)であるとのことである。
アイルランド民謡『The Last Rose of Summer』―夏の名残のバラ―(部分)
'Tis the last rose of Summer, それは夏の名残のバラ
Left blooming alone; 一輪だけ咲き残る
All her lovely companions 同じ木に咲いた美しき仲間たちはすでに
Are faded and gone; 色褪せ散っていった
No flower of her kindred, ともに咲く同じ血筋の花もなく
No rosebud is nigh, 小さな蕾すらそばにいない
To reflect back her blushes,
仲間がいれば紅の色を映しあったり
Or give sigh for sigh! 嘆きを分かち合うことも叶うのに
―――長い後節あり―――
里見の詩では、薔薇が白菊に変貌している。モチーフが変わっただけでなく、テーマも
大きく変わっているようだ。
原詩では、同じ一本の木に咲いた薔薇の群れを通して、友情と家族愛の大切さを訴えて
いる。
たった一輪残った薔薇は、同じ血筋の者もなく、生まれ来る子供たちもおらず、仲間が
いれば互いの色あいを競って楽しんだり、辛い時は痛みを分かち合うこともできるのに、
みんな去ってしまったと。
後節で作者は薔薇に呼びかける。「孤独な薔薇よ。私はおまえをこのまま寂しいままに
しておくのは不憫だ。そして我が身の老い先を思い、名残の薔薇に自分自身を重ねて、私
もおまえの後に続くだろうと予言します。
友情が朽ち去り、友達がみんないなくなり、愛の輝ける団欒の輪、一家団欒の輪から、
宝石のような大切な人たちが失われるその時に――、
心を許しあった人が枯れ果て、老いて旅立ち、愛しき者たちも去ってしまう、その時に
――、私は後につづくと――。
仲間も家族もいない凍える世界で誰が生きていけるだろう。人が年老いて、たった一人
になってしまう寂寥を痛切なまでに謳っているのである。メロディーの美しさとは反対に、
ずいぶん寂しい詩であるが、その嘆きを裏返せばいかに仲間や家族の存在がすばらしいも
のかを訴えているのである。
◇ ◆ ◇
「夏の名残の薔薇」が日本で紹介されたのは、1884年(明治17年)、「庭の千草
」のタイトルで『小学唱歌第3編』であった。当時はまだ海外の民謡・童謡があまり日本
に広まっていない時代で、『蛍の光』や『蝶々』などが『小学唱歌(初編)』に掲載され
たのもちょうどこの頃である。当時「唱歌」を子供達への格好の情操教育の手段としたと
いう時代背景が思われる。
――が、70歳の老域を生きる身でこれらの歌を味わうと、また格別である。まして、
冬の白菊を愛でつつ歩けばこそ―――。
風次郎
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