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風次郎のColumn『東京楽歩』
(No419H-023)
芙蓉1
東京楽歩(H-023) 私的花語り(No23) 芙蓉 2015.秋
富士見で夕方散歩する丘の上の道沿いに八ヶ岳を背に夏中咲いている一本の芙蓉があった。大
きな花弁の淡紅色が夏の夕風に揺れているのが涼しげで美しく印象的であった。
芙蓉の花は夏から秋にかけて、淡紅色の径10cmあまりの5弁花を咲かせるアオイ科の低木
である。九州から中国大陸の海岸に自生があるとのことだが、この頃は園芸種に用いられて住宅
地の庭でも観られることが多くなった。茎の高さ1~3m、良く眺めると葉には細長い柄があっ
て互生し、へりが浅くて3~7裂し、額は鐘形で5裂し、下方に線形の小包葉が10片もある。
花は淡紅色のほか白色、八重咲きもあるとのこと、気を付けていたら国立の住まいの近くの公
園に白い花を見つけた。
富士見で見つけた花は、他人に語ると「酔芙蓉」と名付けられる園芸種で、朝咲き始めた花弁
は白いが、時間がたつにつれてピンクに変色するのだ、と教えられた。色が変わるさまを、酔っ
て赤くなることに例えられたらしい。
フヨウ(芙蓉、Hibiscus mutabilis)全般を紐解いてみると、アオイ科フヨウ属の落葉低木。
種小名 mutabilis は「変化しやすい」(英語のmutable)の意であるから、変わるとの謂れは当
を得ている。酔芙蓉は、(Hibiscus mutabilis cv. Versicolor)。「酔芙蓉」にも八重咲きの変
種があるという。
「芙蓉」はハスの美称でもあるということから、それと区別して「木芙蓉」(もくふよう)と
も呼ばれとのことである。
7-10月始めにかけの長期間にわたって毎日次々と開花する、朝咲いて夕方にはしぼむ1日
花は大らかで爽やかな感じを漂わせる。花弁は5枚で回旋し椀状に広がる。先端で円筒状に散開
するおしべは根元では筒状に癒合しており、その中心部からめしべが延び、おしべの先よりもさ
らに突き出して5裂しているのだ。
果実はさく果で、毛に覆われて多数の種子をつける。
この夏の花の同属に「ムクゲ」がある。同時期に良く似た花をつけるが、直線的な枝を上方に
伸ばすムクゲの樹形に対し、芙蓉は多く枝分かれして横にこんもりと広がること、花や葉がムク
ゲより大きいこと、めしべの先端が曲がっていること、などで容易に区別できる。だが、フヨウ
とムクゲは近縁であることは花相からも分かる。
南西諸島や九州の島嶼部や伊豆諸島などではフヨウの繊維で編んだ紐や綱が地域産されている
とのことだ。甑島列島(鹿児島県)の下甑町瀬々野浦ではフヨウの幹の皮を糸にして織った衣服
(ビーダナシ)が日本で唯一確認されている。
ビーダナシは軽くて涼しいために重宝がられ、裕福な家が晴れ着として着用したようである。
但し、現存するビーダナシは下甑島の歴史民俗資料館に展示されている4着のみであり、いず
れも江戸時代か明治時代に織られたものとのことだ。
「水芙蓉」はハスのことである。「酔芙蓉」と読みが同じだから混同しないように気を付けなけ
ればならない。またアメリカフヨウを「草芙蓉」(くさふよう)、Hibiscus moscheutos、英:
rose mallow)と言う。米国アラバマ州の原産で、草丈は50cm~160cmくらい、7月と9月
頃に直径30cmもの巨大な花をつけるそうだ。葉は裂け目の少ない卵形で花弁は浅い皿状に広が
って互いに重なるため円形に見える多数の種の交配種からなる園芸品種として栽培されるとのこ
とである。日本での栽培も容易で各地で栽培されているらしい。
尚、芙蓉は「水芙蓉」いわゆる「蓮」と区別するために「木芙蓉」とも言ったが、古くは往々
にして蓮(ハス)の花を指したと言われる。又、美女の形容としても多用された表現である。
いずれにしても両花には美徳を醸すかの雰囲気があり、女性の美しさに通ずるものを思わせる。
ちなみに「芙蓉峰」は富士山の雅称。単に「芙蓉」と呼ぶこともある。それをもってして新田
次郎は小説、『芙蓉の人』を書いた。明治28年(1895年)、日本の正確な気象予報のためには恒
久的な高層気象観測の実現が不可欠との思いから、私財をなげうってその富士山の山頂に気象観
測所を設置しようとした1人の民間人野中到の人生を描いたノンフィクションである。
彼は前人未踏の厳冬期の富士山登頂を試み、そしてそこで厳しい環境に耐えながら冬の気象観
測に尽力を尽くしたのであった。その野中到を献身的に支え、「一人では必ず死んでしまう」と、
夫の命を守るためその後を追って富士山に登頂、行動を共にして冬期の気象観測を行った夫人の
千代子。この物語は野中到・千代子の気象観測に情熱を傾ける夫婦愛である。この愛の美しさを
「芙蓉の人」と見つめたのであろう。
さらに雑学的に中国語の用法には、
「芙蓉」( furong; フーロン)は、やはりフヨウの意で使われるほか、ハスを表す。「水芙蓉」
「出水芙蓉」とも。
「芙蓉樹」はネムノキの別称。
「芙蓉鳥」はカナリアの別称。
「芙蓉蛋」は卵白の茶碗蒸し風。など称美的である。 風次郎
芙蓉2
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