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風次郎のColumn『東京楽歩』  
  (No293H-001)
       
             一橋大学図書館前の梅         見事に手の入った近所の家の梅

                                                         
       東京楽歩(H-001) 私的花語り(1) 「梅」      ―2013早春―

 
                              「今年は春が遅いなー」といつまでも続く寒さを恨めしく思っていたが、やっと
                            梅の花の季節になった。もっとも、梅の花の咲くころはまだ寒い日が続いているこ
                            とが多いが、今年は遅かった分を取り戻して急激に花が咲き始めたようだ。
                            そのせいというわけではないのだろうがが、珍しく我が家の玄関前にある紅梅と
                            白梅が一緒に花をつけている。
                             玄関を開けた軒の先に白梅があり、右手の小庭に紅梅がある。例年だとこの紅梅
                            の方が2週間は開花が遅れるのだ。元は裏庭の隅にあったものを転勤生活が無くな
                            るだろうと家を改築した時にこちらに移したものである。長年日当たりの悪い北側
                            の場所に育って身に着けた花の時なのかも知れない。
                             しかし、紅白見比べて愛でる方が心温まる。花に家族感情を押し付ける訳にもい
                            かないが、一緒に咲いたということで双方が讃えられてほっとした気分でもある。

                             数日春嵐のような風が吹いた。この巻風には閉口する。
                             大体梅は開花から散るまでの期間が長いから、眺めながら日ごとに暖かくなるの
                            を心中期待しながら、毎日を楽しむ早春の花と私は解し、だから早咲きの梅を探し
                            て「咲いた!咲いた!」と心を和ませる時の花でもある。
                             その長く咲いていて欲しいとの期待を裏切るのは、この季節決まってやって来る
                            この巻風で、花を蹴散らさんがごとく吹きまくるから、そう思うと真に迷惑で、癪
                            の種にさえ思うのだが。今回の春嵐では梅の花が傷まずにほっとした。

                             我が家の梅を見るだけでは飽き足らず、晴れて風の無い日を選んでゆっくり梅を
                            見て歩こうと家を出た。
                             目的地というわけでもないのだが、一応は一橋大学の図書館前の梅の木を見るこ
                            とは毎年欠かさないから、そちらへ向けて、数軒の庭先を眺めさせてもらいながら
                            歩いて行く。風さえ無ければそれこそ麗らかな春そのものではないか――。
                             そんな日だった。
                              「やっと梅を見る時期になったんだ。」と胸を撫であおろすような気分で、青い
                            空を見上げ、先ずは数軒先の家の庭にある、良く手入れされた梅の木を拝見する。
                             見事に咲き切って、これはもう絶好の見頃である。
                             刈込剪定の行き届いた枝にしっかりとした五弁の花が咲いていた。 
                              「桜切るバカ、梅切らぬバカ」という格言のような言われがある。
                             同じ春の花木でありながら切り口に虫が付きやすく、それがもとで木の寿命を損
                             い易い桜と比較される梅は、木も丈夫だし暖かい時期は旺盛に枝が繁るので、努め
                             て剪定に精を出さねば見応えを得るわけにはいかないのだ。
                              坂道の途中にある家の門の脇にある木は、小さな木であるにかかわらず、昨年そ
                             の家のおじいさんが手を入れて随分枝を切ってしまったから、2枝の寂しそうな咲
                             き振りであった。
                              その先の芝生の庭が広い家のものは、横に枯葉をつけたままのモミジと並んで立
                             つ形の良い木に8分咲きであった。
                              この木は来週が見頃になるだろうか――。などと心中わが物顔といった見物であ
                             る。 
                              丁寧に囲われた庭の梅の木は、往々にして形を優先される為、枝の広がりを抑え
                             られることになる。だから往々にして前年の新枝が切られてしまうことが多い。
                              梅の花は、本当は昨年伸びた新枝に咲くのが良いとのことである。そんな花はし
                             っかりとして大きく、それに細枝に付いているさまがとても美しい。
                              勿論、古枝のものが見劣りするというわけではない。
                              古木の幹にしがみ付くようにピョイと突き出た枝の花など、見逃すのは誠に勿体
                             ない。 
                              桜の大木に混じって国立駅前から一橋大学に続く学園大通りには何本もの梅の古
                             木もあるのでそこでは、私は主にこの新枝の花を見ることにしているのである。

                              万葉の時代、「花」といえば「梅」を言ったそうだ。貴族の屋敷には必ず用いら
                             れ、だからその時代のロマンにはこの花が多く添えられ、登場している。国立の大
                             通りを真っ直ぐ行った谷保には菅原道真を祀る梅林を配した「谷保天満宮」がある
                             が、彼の先達は、
                               ――東風吹かば 匂いよこせよ 梅の花 主なしとて春なわすれそ――
                              と謳った。懐かしの地を偲ぶにも梅の季節を介したのだろうか。 

                              大学の構内へ、正門からまっすぐ進むと目指す見事な梅の木に会える。
                              池のほとりに生きるこの梅の古木は、はたしていつ頃からここに育ったのであろ
                             う。聞いてみたことはないが、おそらくここに校舎が神田一橋から越してきた当初
                             からのように思う。
                              昨年おおいに手入れされ、横枝のようになったこの古木の幹は、何本もの添え木
                             が支えている。年々手を入れるとは言うものの、木は大きくなって、咲いた花の香
                             は益々広がりの観を否めない。
                              背景は図書館の時計塔であるのが又佳い。見事だ。
                              ここではもう一本、本館の前の背の高い梅の木を観る。こちらは割合にまっすぐ
                             な幹のまま手を広げた感じの花模様を見せている。
                              一橋大学の構内には他にも梅の木が数本あるが、構えて見事なのはこの2本であ
                             る。勉学に勤しんだ幾多の若人が、現代の道真よろしくこれらの花を懐かしんでい
                             ることだろう。

                              一般に紅梅は少ないように思う。雪の季節である冬から春に渡る季節の花として
                             は、やはり梅の花は白からピンクが時の花として相応しい色なのかも知れない。
                              大学の構内で篤と青空に広がる梅花を眺めて楽しんだ後、帰り道で目の覚めるよ
                             うな黄色に出会った。大学通りのグリーンベルトの一角を、菜の花が咲いて一面を
                             埋め尽くしていた。黄色には暖かさを感ずる。
                              この季節、色物の殺風景な道の脇にいかにもの明るさ、が強調されているように
                             見えた。
                              この景色は、春を告げるたくさんの色が、そろそろ自然界から今年も齎されてく
                             る幕開けの定番なのだろう。
                              暖かい春の到来を嬉しく思った。
 
   
                                                                           風次郎
            

             
       一橋大学本館前の梅             大学通りの古木に咲いた梅

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