☆☆☆
朝食後、バスで中央駅へ向かう。
ベルリンの朝の太陽が爽やかに射し込み街は明るかった。
私は広々とした感じのベルリンの街、森をふんだんに配した公園都市の印象がとても気
に入って、名残惜しかった。
遠い時代プロイセンの都市遺産を目の当りにしたナポレオンも、社会主義を旗印に制
覇を狙ったつい少し先の時代のスターリンも、ここに入城してヨーロッパの理想郷を思
い描くロマンを持ち抱いたのではないだろうか。当然ながら自身の基軸の都として世界
に君臨しようとしたヒットラーの愛着は想像に難くない。
朝日が眩しい。クリスマスシーズンの街の通りを中央駅に向いながら、私も一つの憧
れをしたためるのだった。
そして、今日は中央駅からミュンヘンへ向かう列車に乗るのである。
ベルリン中央駅に着いた。
駅では少し時間があったので駅内を散策したり外から眺めて過ごすことが出来た。
東西冷戦下で政治的に分裂していた頃のベルリンは、長距離列車の拠点が複数の駅に
分散していた。旧東ベルリンのベルリン東駅と、旧西ベルリンのベルリン動物園駅(ツ
ォー駅)である。現在の中央駅の場所は、大戦直後まではレールテ駅というターミナル
が存在したが、1950年代初めに長距離列車の発着が廃止され、都市線の駅だけが残
されていた。
中央駅としては2006年5月のサッカーワールドカップ開催に合わせる形で完全統
一駅として作り直され開業したのである。
外から眺めると、キュウビックのような角張ったガラス張りの建物に空が写っていた。
東西高架線のSバーンの駅と地下の長距離線ICEの駅が交差してホームを形成している。
さらにベルリン地下鉄駅がその下にある。工事の途中では付近を流れるシュプレー川
の移設など難航もしたとの事、設計も高度なものであろう。
エントランス階にはマックなどのファーストフード店やスーパーなども国際感覚宜し
く上品に並び大きなクリスマスツリーも電飾を煌めかせていた。文房具店でクリスマス
ソングのドイツ版CDを見つけて4ユーロで買った。7時間の特急列車の旅の車中で聞
いていたが、ドイツの現役歌手の歌もあって随分安い買い物だったとほくそ笑んでしま
った。
鉄道の旅は楽しい。私は鉄道員の息子であったことから、子供の頃機関士になりたい
夢もあったから鉄道にも惹かれる。ヨーロッパではフランスのTGV、イタリアのユーロス
ターを体験した。ドイツの高速新幹線はICEと呼ばれている。ドイツのICEはTGVと
は異なり、客車を連接構造とはしていないが、座席の間隔が広く、食堂車も連結されて
いて、居住性が高いのが特徴と聞いていた。
ベルリン中央駅を出発したのはICE1(アイシーイーワン)編成車両(現在はIC
E2編成が新しいがこの路線では採用していない)であった。両端に動力車(BR401
形と呼ばれる最高速度250km/hの電気機関車)を配し、標準で8−14両の客車を用い
た編成である。
「ほんとに250km/hがでているの?」と思うほどスピードを感じない早さだった。
ドイツ人らしい人たちが同じ車両に居たが、ドイツ語は馴染みが薄いので言葉を交わす
勇気も無く、移り行く車窓を眺めていた。
ベルリンの町はすぐに通り抜けて、冬の田園地帯や葉を落とした林が点在する枯れた
野の中を走り続けるのだった。
日本の列車と同じ4人掛けのボックス席には、中央にテーブルが設えてあり何かと便
利である。旅友が持って来ていたこれから訪ねるミュンヘンのDVDを借りてPCで見
てから一眠りすると、昼食のサンドイッチのお弁当が配られた。私は食欲が無かったの
でその中のりんごと持っていたバナナを食べ、車内販売の水とコーヒーを買った。コー
ヒーがまずまずの寛ぎになった。
数日前美しさに感銘を受けたドレスデンを過ぎた。列車はどんどん南下して走り、進
行左側に座った私たちの窓からは西の傾いていく陽を受けた平原の風景が続いていた。
高い山も見えず、起伏のある丘と農地、牧草地が大半であった。
窓の外に時々現れる集落の山の上に教会が見えたりなど、いかにも牧歌的な風景にも
出会って、ゆるやかな旋律の曲が流れるような静かな起伏が続いていた。
太陽が時々覗くと思うと、時々雨もある変化に富んだ季節の変わり目も見た。
午後の日が傾き始める頃、少し風景は変わった。
出発時の晴天は何処えやら、雲の影の下は林、落葉樹は葉を失ってさびしげ、所々に
広がる森、広大なドイツ国土の代表的な風景なのであろうか。斜めの陽に輝くのは綺麗
だったが――。
森はこの国の歴史ロマンの舞台である。世界の人々が親しんだ物語にも幾多その舞台
は取り上げられている。赤ずきんは森で狼に出会い、いばら姫が眠る城はハルツの森の
中にあった。ヘンゼルとグレーテルは森に捨てられたのである。
やがて、ニュルンベルクから先では針葉樹林帯の近くを通ることが多くなった。
陽の当たる平原の丘を背景に、そこはいわゆる「深い森」「黒い森」を思い浮かべさ
せられる感じで眺められる。それはベルリンで見てきた街の中に広がる森や、ポツダム
に残る城を取り巻いた森とも違う、深く引き込まれる印象に残る風景で、当にその時代、
ライン河に沿って繰り広げられた千年に及ぶローマ帝国との攻防の歴史を育んできた大
地に相違ない。
と、陽の傾いて行く時の流れにつられて思い巡らす私を旧史の時に誘うに十分であっ
た。
車窓が街を通るとき、そこに現れる建物には装飾を施し中世からの様式を模したやや
背の高いものが数多く含まれていることが眼に止った。それこそ遠い昔のローマの文化
に影響された歴史が語る石の文明であろうか、レンガ造りの建物なども混じった風景に
出くわすと、そこに古(いにしえ)の民族交流や、幾多の戦いとともに時代を経たこと
を述懐する思いが走るのであった。
ふと気が付くと、私たちがここも数日前歩いた街、ニュルンベルグの駅に停車したと
ころだった。駅前にシェラトンのホテルがが見える。
向かいのホームにはコントラバスやバイオリンを持った人たちの一行が、列車を待っ
ていた。オーケストラの一団だろうか?こちらが動き出すとき思わず手を振ってしまっ
た。
列車はドナウ川を渡りアルプスに近付いて行く。4時30分ミュンヘンに着いた。
既に暗くなっていた。ヨーロッパの冬は夕暮れがとても早い。
搭乗したICE1 到着したミュンヘン駅はクリスマス飾りがいっぱい
* 2011冬のドイツの旅(11)
* 風次郎の『東京 JOY LIFE』トップへ
* 『風次郎の世界旅』 トップページへ戻る