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風次郎の世界旅
 カナダの秋
(8)

music by KASEDA MUSIC LABO

         
                感謝祭用の収穫物を並べた屋台とバイワードマーケット建物内の様子         

8.オタワ(@)

                     バスは交差点を回り、屋台も出て人で賑わう広い通りに止まった。この賑わいがバイワード・マーケットであった。
                     昼食をするレストランはこの広い道路の反対側、交差点の角にあるレンガ造りの3階建てで、古い伝統を物語っ
                    ていそうに目に映った。バスを降りたときから、小杉由加という可愛らしい現地の女性が寺山さんのアシストに加わ
                    り、彼女の案内でお腹を空かしたメンバーたちは激しい往来のある通りを駈け抜けるように渡った。
                     歩道脇のレンガ壁に木枠のメニューが架けられ、その上に「WILLIAM St.」と表示板が出ていた。これがこの
                    通りの名前なのだろう。
                     入り口の前の舗道に幌の雨除けが張り出され、Oregano's Pasta Market と書かれている。この店の名前だ。中
                    に入り、席を戴いてしばらく待つ間、店の雰囲気を確かめるのも悪くは無い。私たちの外には遠来の客は無いよう
                    であったが、午後1時をとうに過ぎた時間なのにほぼ満席の様子だった。建物は相当古く、それだけに窓辺や、階
                    段など往時のものと思われる彫刻が年季を経た艶を伴って見事だった。この家の主が集めたに相違ない、著名人
                    らしい人々の来訪した写真とサインがたくさん飾られていたし、船乗りでも使いそうな道具が、天井の下の棚に並べ
                    られていた。この地では存外有為なレストランに違いない。上品そうな年配の客が多い店のようだった。
                     私とはなは田中さんという若い二人組みの姉妹メンバーと同じテーブルを囲んで、ビールをいただいた。ほんの少
                    しばかりだが澄んだ空からそそがれる陽の光を浴びてきた体に、染み渡るカナダのビールだった。彼女たちとの会
                    話も楽しく、2種類のパスタを殊のほか美味しく感じた。
                     食事の後、レストランの前で小杉さんから近辺の様子の説明があった。彼女は説明を始めてから、「自己紹介が
                    まだよ!」と寺山さんに促され、少し恥ずかしそうにしながら、「まだ未熟なものですから、小杉由加です!」と言った。
                     ニコニコして拍手するメンバーの前で、生真面目そうな初々しさがとても印象に残った。
                     バイワード・マーケットは感謝祭の前の買い物客で賑わっていた。屋台の店にはお化けを彫刻するためのカボチャ
                    が山ほど並んでいた。オレンジやとうもろこしバナナなど黄色い色の収穫物が多いように見えた。
                     私たちのグループのメンバーは、それぞれの思惑でマーケットに入っていった。私とはなはカナダ土産用のメープ
                    ルシロップを、カードで買える店があると言うので小杉さんに案内してもらった。闊達なおばさんといった頼もしい感じ
                    の日本婦人の店が屋台の並びにあった。私達は思い切って土産用のメープルの数を指折り数えて全部そこで買い
                    揃えてしまった。旅はまだ半ばであったが、みやげ物を一応確保したことで気が楽になった。
                     屋台の中心には歴史あるレンガ造りの建物が建っていた。一時老巧化で取り壊されそうになったが、マーケットを
                    愛する市民達の猛反対で残ったらしい。縦に長い建物の中央に通路があり、その両側に肉、魚、チーズ、パン、惣
                    菜などの専門店が並んでいた。デッキのように設けられた2階の廊下を歩くと、美術家のギャラリーやクラフトショッ
                    プなどもあり、ひととき、地域の作家の心に触れることもできた。大勢の市民の出入りがあって、マーケット全体にこ
                    の地方の匂いが満ちている感じで楽しかった。 

                     1時間ほどマーケットで過ごした後、ブルースさんの運転する私たちのバスは市内の観光に向かった。マーケットの
                    すぐ隣に有名なフェアモント・シャトー・ローリエ・ホテルを眺めた。こちらも彫刻のような美しい建物であった。ホテルの
                    脇を広い通りにかかった大きな橋を越えた。橋の下がリドー運河、上の通りはオタワの幹線道路だが、運河までをリド
                    ー通り、国会議事堂に続くその先をウェリントン通りとわざわざ分けている。橋を越えると左側が市の中心にあたるコン
                    フェデレーション・スクエアである。議事堂は広大なグリーンの敷物の上に置かれた芸術品のように小高い丘の上に浮
                    かんでいる。午後の陽を浴びて中央のピースタワー(92.2m)の先端にはためく赤いメープルのカナダ国旗がくっきり
                    見えた。
                     ブルースさんは半そでのシャツになって一人一人に“行ってらっしゃい!”と声をかけてくれる。風も穏やかで暖かく、議
                    事堂を歩いて周回するのには絶好の日和だ。私達はまず正面広場に設けられたセンテニアル・フレームの灯を囲んで、
                    小杉さんの説明を聞いた。カナダ建国100年を記念して、1967年の年明けから燃え続けているとのことである。このよ
                    うに独立して平和な今日に至る建国のメモリアルがあちこちに設けられている。そしてそのそれぞれにそこに携わった人
                    々の名を尊ぶ記念銘が施されているように感じた。
                     石畳の正面を時計台のあるピースタワー進んだ。ピースタワーは戦没者鎮魂のため建てられ、毎日ここのカリヨンが演
                    奏されている。また、初代首相ジョン・アレクサンダー・マクドナルドの執務室は当時のまま一般公開されているとのことで
                    あった。議事堂の左手一段と高くなった場所にある慰霊碑を参り、そこからオタワ川と対岸の仏系の地域ガディーノを眺
                    めながら周回をしてすごした。ところどころに植えられたメープルの彩が建物の古色を背景に冴えていた。

                     オタワ川に浮かんだビクトリア島を跨ぐポルタージュ橋を渡り、対岸のケベック州ガディーノに達した。こちらはオンタリ
                    オ州と違ってレストランやバーが朝の3時まで営業しており元気のいい若者たちはオタワ市内からわざわざ出かけてくる
                    とも聞いた。オタワの官庁街的な傾向に、庶民的な町を訴えているようだ。私達はカナダ文明博物館へ向かい、カナダ
                    900年の歴史の跡形の一端を垣間見たり、川岸の展望広場から、先ほど見学してきたパーラメント・ヒルと国会議事堂
                    を眺めたりした。
                     オタワ市内へ戻るときは、アレクサンドラ橋を渡った。途中で小杉さんが川の中央が州と州の境界線で赤い線が見える
                    と言ったので、私は一瞬身を乗り出してしまったが、周囲のそれが冗談だと理解して聞いている雰囲気を悟って苦笑した。
                     私にとっては始めてのジョークだったから‐‐‐。
                     対岸に帰ると丘に登った。ネイピアン・ポイントと呼ばれるメープルと芝生の公園で17世紀の始めにオタワ川を探検した
                    サミュエル・ド・シャンプランの銅像が建っていた。斜めになった陽の光に煌くメープルはここではオタワ川の川面を背景に
                    美しさを極めていた。
 
                     カナダと言うと純度99.9%のメープルリーフ金貨が有名だが、これを製造しているロイヤル・アナディアン・ミントの前を
                    通った。何やら美術館のエントランスのようで、お金を作っていると言ういかめしさも無く、見学も無料だし、コインも売られ
                    ているそうだ。開放的と言うのだろうか。戦争博物館、国立美術館、などの並ぶサセックス通りをまっすぐ進んで、リドー運
                    河沿いに出、宿泊するラマダ・ホテル&スイーツ・オタワに到着した。ここでも真面目な挨拶を残して小杉さんは去っていっ
                    た。
 

      
    ケベック側からパーラメントの丘を眺める(丘の左がリドー運河への河口)

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