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10時にホテル前から観光バスに乗る。バスでナイアガラの1日を過ごし夕方トロントに泊まるスケジ
ュールの開始である。
夜が明けてみると見渡す風景の中に彩の季節が顕かになってカナダの秋が漂っていた。昨夜から
“まだ暖かいのだなー”と感じていたが、丁度昨日あたりから暖かくなったのであって、先週は凍える寒
さであった由、その冷え込みで、木々の葉がすっかり色を濃くしたのだそうだ。
バスは早朝から日本の人々で賑わっている大橋巨泉さんのOKショップと見晴台をもったミノルタタワ
ーの間を通ってホテル街を離れて進んだ。 ナイアガラ国立公園はフォールズビュー地区をはさんで区
画整備された公園都市を形成している。バスの入っていったのは比較的自然のままの姿が残っている
南の地域で周囲が森に囲まれた芝地の広がりであった。区画のあちこちには古木も立ち、メープルを
はじめとする紅葉の真っ盛りであった。
ゆったりとした国際観光地の雰囲気があった。西欧を旅すると、このように広い公園にあちこちでお目
にかかるが、眼に触れるたび思うのは手入れが行き届いていることである。
私たちの国日本も「庭園を創る」という伝統を持つ。ときには「箱庭」と皮肉られることもあるがそのスケ
ールにおいては広大な大陸に遊ぶ彼らにはかなわない。ここは森の国カナダではあるが、自然だけでな
く、近代的な都市を建設しその自然との調和と環境を良く保つことに力を注ぐ彼らの姿勢には感心してし
まう。
広い台地を通ってナイアガラに注ぐ一つの谷へ降り、バスは湖沼のような水辺の森の中を進んだ。しば
らくすると目の前が開けフォールズの上流に出た。
ナイアガラ河を見渡す場所でバスは止まり、私達は河のほとりの風景を眺めた。
すぐ眼の前を流れる河の流れはここでではかなり急流であった。中州のように存在するゴート島にへば
りつくように朽ちた黒い舟体がさらされていた。何10年も前急流に流されて難を逃れ、座礁したままの姿
であるとのこと、この観光地にあって事実として辿るに相応しい奇異な物語を目の当たりに見た。もっとも
こんなものに好奇心を起こしていたのは風次郎だけだったかもしれない。
ナイアガラ流れは目の前のゴート島に二分されカナダ滝とアメリカ滝ヘ向かう、見た目にも大きなの水量
と流れの速さは、時にどうしてもカナダ滝に片寄ってしまうのだそうだ。世界にその名を知られた観光地に
あっては、まして国境を隣して観光客にサービスを提供するに当たって、水の無いアメリカ滝にならないよう
に流れを調節しているのだという。その配分1:9、その堤防がこちらの岸から突出しており、昨夜上流の夜
景に灯りをともした長い橋が掛かっているように見えたのがこれであった。そしてまたこの豊富な水量は電
力の源にもなっている由、それを操作をするレンガ造りの建物が公園の端に見えた。
私たちは河畔の赤く色ずいた木の下でそれぞれ記念撮影をして下流に向かった。
バスが動き出した直後、南に向いた窓に薄日の空が開いてくる感じがあって、滝の上にすっきりと虹が現
れた。アメリカの丘の麓とカナダのテーブルロックを結ぶ美しい虹の橋であった。バスの中はまたしてもざわ
めき、窓側は一斉にカメラを構えた姿で埋まった。
テーブル・ロック・コンプレックスはフォールズズビューの中心地である。崖が丁度滝壺を見下ろせるように
なった都合の良い場所に張り出しているのだ。カナダ滝はそこから馬蹄形に流れが落ち込んでいた。観光客
は落ち込むさまを滝壺を覗き込むように見下ろすことができる手摺を幾重にも取り巻いていた。
青空の下、今日の滝の上はほぼ真っ直ぐに水煙が立ち上がっている。水煙は滝壺から流れ落ちる水のヴ
ェールに沿って落ち込みの上水平から落差50m余の分を積み上げたくらい、沸くように上がっている。白く
湧き上がる水煙が青空に広がって綺麗だった。
はなと私も割り込むように滝の流れ落ちるすぐ脇の手摺に入り込んで見下ろした。
白い水煙の中へ豪快な流れが吸い込まれていくのを見ると、朝覗き込んだときと違って、崖の上にいること
も忘れて、恐怖どころか爽快そのものであった。もちろん凄さを伴うものであったが、清々しいものであった。
それは周囲に嬉々として集まる観光客たちによってもたらされる雰囲気によってのことでもあろうが、滝に向
かう人の一般的な想い通りの感激に満たされた感じ方であったと言って良いと思う。
私達はもちろん"Maid of the mist"に乗って直下の滝を味わった。まるで嵐の中を往く船の感覚を体験する
わけだが、少し離れると優雅に映るアメリカ滝を直下から見上げると裾の荒々しい岩場に当たる水の凄まじ
い猛りに驚いた。あとは両滝の猛りが作る濛々たる滝煙にまみえながら、流れに逆らって、カナダ滝の滝壷で
船が揉まれて轟音の中で暫しの時を過ごす。“なるほど、すげーや!”の一言だった。
ヘリコプターツアーというのがあるとのことだ。それも面白そうだったし、"ジャーニー・ビハインド・ザ・フォール
ズ"といって滝の裏を見るコースにも未練があったが、私達には大人しくエレガントにスカイロンタワーの
Revolvingにランチが用意されていた。
タワーは地上160m。カナディアン・ポークの食事の間、回転しつつ眺める2国の滝は、アメリカ滝、小さなル
ナ島を隔ててブライダルベール滝、ゴート島をはさんでカナダ滝と並んで見え、満たされた紅葉の中に流れの
青と、滝煙の白を美しく光らせていた。
滝は飛沫があっれこそ面白いものだということをもつくづく味わった。
米加を結ぶレインボウブリッジもここからの眺めはなかなか良かった。アメリカ側には又アメリカの楽しいイベ
ントが発見出来そうな気がする。こんなところへ時々来れたらよい。
秋の陽を浴びる公園の木々の下での寛ぎをはさみながら川に沿って下り発電所と大きな花時計を見た。花
時計は直系12.2m園芸学校の生徒によって飾られているという。学生の手入れというのが良い。花は余計
美しく見える。
ナイアガラ渓谷の侵食のルーツというべき角が大きく抉られて、カーブした流れの場所を見た。
滝の形成は1万2000年前、氷河が溶けてエリー湖が隆起しその流れでナイアガラ断層に滝が生じたとの事。
そもそも当初はこの下流に滝は存在したのだという。しかし、流れの下部の砂岩、堆積岩より上部の石灰岩が
硬いため、滝によって先に下部が削られ、次第に上部の石灰岩も崩れ落ちる現象が生じ、それは今も続いてい
るという。その速度、年に約1mだったとか。自然の営みは、極めて不思議、驚異、そして豪快である。結果生成
より現在後退11km。これからの未来どう変わっていくのだろう。
こうしてのんびりカナダの秋を過ごしていると、雄大な自然の流れの中にある自分達の小ささ、人生がほんの刹
那であることをしみじみと感じてしまうのである。
紅葉の煌めきの中で刹那の寛ぎを楽しむたびは続いた。
バスはナイアガラオンザレイクの街を抜けて、トロントへ向かった。
レインボウブリッジ・アメリカ滝・ブライダルヴェール滝