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風次郎の世界旅
 カナダの秋
(4)

music by KASEDA MUSIC LABO

      
     アメリカ滝(ナイアガラ・フォールズ)
     

4.ナイアガラの一日

                      4時半に眼が覚めた。ドーと言う音が静かに響いている。窓のカーテンをそっと開けてフォールズを見る。
                      薄明かりに白い滝のカーテンと、滝煙が見える。カーテンはアメリカ、煙はカナダだ。
                      例によって朝の散歩に出よう。丘の上のホテルから滝のほとりへ降りてみよう。ホテルのすぐ隣にはインク
                     ライン・レイルウェイがあるが朝は動いていない。直下の滝の傍へ行くのにはクリフトンヒルの街を廻って行
                     かねばならない。
                      半年ほど前から足首の関節に痛みが出て私は走れなくなった。歳のせいもあるから時間がかかると思うが、
                     いずれ治るだろう。しかし歩くに不自由はない。歩くのは止めないほうが良いと決めて早朝散歩は続けている。 
                      フロントを出ると昨夜食事をした「アップル・ビーズ」がある。カメラの名前で何となく親しめる「ミノルタタワー」
                     が見えた。
                      クリフトンヒルへ通づるメインストリート(スタンレー通り)は工事中で舗装が掘り返されていた。滝のほとりの
                     パークウェイへはホリデーインの角を右に折れて何処からも目立つスカイロンタワーから下へ降りるのが近い
                     ようだったが、遠来の客としてはやはり繁華街を眺めてみたかった。
                      ヒルトンホテルの前を真っ直ぐどんどん進み、ゆるい坂道を登ると大きな交差点があった。右がクリフトンヒル
                     へ向かうヴィクトリアアベニュウだ。広い国立公園の中にあって繁華街はほんの一角であることがわかった。
                      どこでもそうであるように、夜明けの盛り場は前夜の名残のネオンがためらいもないパターンで活発な点滅を
                     繰り返している。パークウェイへ下る急な坂道の両側のビルが、夜を徹して遊び明かしたらしい若者のざわめき
                     とともに、エネッルギーの持続を誇示するような明るい輝きを放っている。昨夜、今年はこのコースを月に2度づ
                     つも案内しているという寺山さんから“この街もラスベガスを志向しているらしい”と聞いた。ギャンブルは金にな
                     るのだろう。カジノの持つ独特の雑然の雰囲気と音が道路を歩いている者にも伝わってくる。滝との関連性があ
                     るような、また純自然の観光とはマッチしないような。
                      パークウェイへ出る手前に、フォールズ通りと言う名の小さな道があり、小さな広場に、この地の開発に貢献し
                     た人々を顕彰する碑が立てられていた。
                      パークウェイ越しに河岸の広場があり、その向こうにアメリカ滝が広がっている。あたりはまだ夜明けの気配も
                     ない。ドーと滝の音ばかりがうごめく者のない闇の中の存在であった。
                      河岸の手摺に手を置いて暫し暗闇のアメリカ滝に眼をやり、右に視線を移してはカナダ滝を見上げるようにし
                     ていた。カナダ滝の滝煙は昨晩より小さくかたまって滝のスケールの大きさが良くわかった。昨晩大粒の雨ほど
                     の水煙を手摺に寄せていたのは風のせいであったのだ。おそらく少しの風が落ち込む滝の上をかすめて流れて
                     いたに違いない。今朝は霧のように寄せてくる静かな飛沫だった。
                      その中を3人の若者がかたまって駆けていく。仲間らしいが旅の者達だ。はしゃぎ様がそうだった。私も彼らの
                     後に続いて歩き、少し飛沫に濡れてみた。秋の朝、滝飛沫を浴びるなど一つの体験になろうかと。
                      若い人は良い。少し先の馬蹄形になったカナダ滝を正面に望む手摺にまたがって、先ほどの3人は大声で語り
                     合っている。風は滝飛沫を下流に運んで、無邪気に遊ぶ子供達のように見える彼らにその場所をあたえているよ
                     うだった。
                      ここがテーブルロックコンプレックスと呼ばれるカナダ滝を眺める格好な場所である。それにしても滝の落ち込み
                     を目の当たりにするのは轟音と薄明かりのなかではとても恐ろしい感じがした。
                      上流のほうへ歩いた。河畔を歩きながら見る流れは決して穏やかな流れではないことがわかった。しかし落ち込
                     んでいく滝そのものの凄さから離れると、とても穏やか感じられる。広い駐車場とグリーンベルトが続いていた。そ
                     の駐車場の中を駈けている人がいた。車は隅に数台があっただけだから空と言って良いほどの広場だった。私は
                     近寄って声をかけた。体格の良い人だった。日本語で“おはよう!”と言うと、“Good Morning Sir.”と返ってきた。
                      Sirには恐縮したが、日本語がわかったのだろうか?やはり観光で訪れているカナダの人だった。
                      駐車場から林の中を上に登る道を辿ると、上の丘は平らが広く続いた公園になっていた。教会や数軒のレストラ
                     ンらしき建物があって道は私達の泊まったホテル街のほうに続いていた。
 
                      朝食を済ませて部屋ではなとコーヒーを飲みながら滝を眺めた。窓から見るカナダ滝の水煙が少し薄らぎ一面に
                     広がっていた空の雲が赤く染まっていた。
                      陽が昇る!
                      丁度滝の上に陽が昇ってきた。それはそれは美しい光景になった。神様に贈られたプレゼントのように思った。
                      何枚かの写真を撮った。


カナダ滝に上る朝陽(ホテルの窓から)


 

 5.ナイアガラの一日(A)
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