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アサバスカ大氷原(ビジターセンターのテラスから)
ボウ峠を過ぎて道路が下りになると標高差のためか、心持雪は緩やかな状態に変わった。車窓から眺める山の
斜面に立つロッジポールパイン(ヒマラヤスギ、モミに似た木)は雪に塗れて白く冬景色を現わしている。ガスも少し
薄らいで山々の峰が見えていた。岡部さんは次から次と山の名前を挙げていった。ウィルソン山(3261m)メアリ
ー山(3329m)などみな3000m級の山々の連なり、厳しい自然の中に構えている姿を見せつけているようだった。
大きくカーブを切ってサンワプタ峠をやり過ごし、バンフから187kmもの距離のアイス・フィ−ルド・パ−クウェイを走
ってきた私たちはついにコロンビア大氷原(Colombia Icefield)に属するアサバスカ大氷原(thabascaIcefield)を見た。
バスはビジターセンターの駐車場に止まった。
あらかじめ雪上車の運行休止を知らされたので、かえって氷河の実際を眺めることの出来る喜びがあった。この氷
原こそ北極圏を除く北半球最大の氷原であるコロンビア大氷原の末端、アサバスカ大氷原なのであった。
カナダは過去4回にわたる大きな氷河時代を経てきている。かつて、アサバスカ氷河とコロンビア大氷原は大地を
削り、今日見られるロッキ−山脈を彫り上げた巨大な氷床の一部だったのである。
コロンビア大氷原から流れ出す川は、北は北極海、西は太平洋、東は大西洋へと注がれる。流れる氷河は、名前
が付いているもので8つ、それ以外にも無数の氷河が流れ出しているとのこと、その8つの氷河のひとつ、このアサバ
スカ氷河は一時期、北は現在のジャスパ−の街の位置、東は大草原地帯、南はカルガリ−の先にまで達していた。
数百キロにおよぶ距離を流れるのに数世紀もの時間を要したのである。
今、北アメリカのほとんどの氷河は冬に蓄積される雪よりも夏に解ける量が多い為、年々後退を続けてるという。
氷河の後退は年間平均1〜3m、アサバスカ氷河もいつかは消滅するのだろうか。
駐車場には運休した雪上車が並べられていた。何と2mを超える巨大な車輪であった。その脇を眺めて通りながら、
私たちはビジタ−センターへむかった。ビジターセンターのすぐ先にアイスフィールドの広がりが見えた。雪が舞い、か
なり強い風も感じたがなんとか氷河上に行けそうに思えるほどあたりは明るかった。しかし、センターに人は少なく、訪
れているのは殆ど私たちだけだった。観光はどうにもならなかった。それでも40人の集団は館内を賑やかにして、展示
を眺めたり、展望テラスから彼方のアイスフィールドを眺めて写真を撮ったりした。何故だか風の中を餌をねだるカラス
が手摺にとまっていた。
テラスから運休でなければ辿ったであろう雪上車の通路が見えた。ゲートから一度大きな低地に下り、そこからアイス
フィールドを上っていくのだ。氷河はうねるようにせり出していて、その最後の盛り上がりのところまで通路は延びて見え
た。雪上車観光はその先まで行くのだと岡部さんの説明があった。
雪上車には乗れなかったが、アイスフィールドは見た。再びバスの中に戻ると多少の落胆を感じた。しかしここまでこ
れたことに満足せざるを得なかった。添乗員の寺山さんが「時間が余ったから、バンフに戻ってサルファー山へ上って
みましょう。」と言った。みなすぐに賛成して新たな期待に呼び覚まされた雰囲気が沸いてきた。
バスは来た道を帰っていく、やはり峠は相当な雪に見舞われており、道脇にはみながはっとする事故を起こした車も
見えたりした。私たちはスムースにバンフの町に戻り氷河観光のツアーを終えた。
サルファー山のゴンドラは豪華版だったが、頂上からは何も見えなかった。展望ハウスで休憩して、下の駅で買い物
をした。駅の広場に氷河観光の雪上車(実物)が展示されており、再び雪上車を見て囲んだ。記念撮影には格好であった。
夕暮れのバンフの町の散策はこのツアーの最後の寛ぎであった。 わたしはハナと西東京から参加している指村さん
ご夫妻を誘って少し市街地から外れたスーパーマーケットへ行ってみた。夕方の買い物に来た地元の人たちの様子を
さりげなく眺めたり、出回っている日常生活用品の類などを興味をもって物色した。そのスーパーは平屋で、日本の街
のスーパーと同規模のものであったが、商品の野菜などは名もわからないものが並んでいた。石鹸だとか、歯ブラシな
ど生活用品は2〜3割日本より高く感じた。肉や魚の加工食品は見慣れたものが多く(値段は良く判らない)菓子類はと
ても安かった。菓子は何種類か買って持ち帰ったが、私の口には美味しくは無かった。安物だったからかもしれない。
中心街に戻るアーケードの中央にあったチョコレート屋さんでバンフ産のチョコレートを買ったあと、大橋巨泉さんの店
の2階でサービスの日本茶をいただいた。懐かしい感じがした。
そして旅の最後の夕食会がバンフの駅の建物にあるレストラン『Caboose』で行われた。
案内された伝統あるバンフの駅舎にあるレストランは素敵だった。上品なカナディアンの肉料理が丁寧にサーヴされた。
往年の貴族達の使ったレストランのような感じが良かった。やはり指村さんたちとテーブルを囲んだ。楽しかった数日間
の思い出と残念だった今日のアイスフィールド観光など、ごちゃまぜによく喋った。最後が雰囲気の気に入ったレストラン
で美味しい料理でよかった、との結末になった。ランチョンマットの代わりに各人の食器に敷かれた古いバンフ駅の写真
シートを記念に持ち帰って額に入れてあるが、捨てがたい風情が思い出を沸き起こしてくれる。
9時を回ったころ。バンフの町を後にした。ケンモアの山懐のホテルまでバンフの町明かりが後ろ髪を引いた。バスを降
りたホテルのロータリーにボウ川のささやくような響きが漂っているようだった。夜気はとても冷たく感じた。
サルファー山ゴンドラのチケット