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風次郎の世界旅
 カナダの秋
(13)

music by KASEDA MUSIC LABO

                       
              ボウ川越に眺めたカスケード山(絵葉書)         

13.カナディアン・ロッキー(3)

                 東京では隣町、立川からやって来ているいう田中さん姉妹の席があいていた。「おはよう!」と声をかけ、はなと二人
                の同席をニコニコして迎えてくれた。おとなしそうな姉妹二人は時々連れだって出かけているらしい。姉妹仲良し1番だ。
                 やはりカナダは初めてだそうで、今日の天気を心配している。それでも若い人の会話は明るく華やかで良い。こちらの
                気持ちまで元気になる。
                 八時の空は明るくはなったが、ダイニングのガラス窓が曇りガラスのように外の景色をボカシている。外と内の温度差
                がかなりのものであろう。
                 バターロールにママレードをつけたパンとコーヒーで朝食を済ませてフロントを出ると、既にバスが待っていた。昨日カ
                ルガリーに着いてから、近畿日本ツーリストのいわゆる″5人バヤシ”のマークをつけたバスを使っている。近畿日本は
                カルガリーにこのバスを2台持って運行しているとのこと、日本にいるときのの車のようで何となくこそばゆい感じと、プラ
                イドが許されるみたいな鷹揚な気持ちになった。
                 風もなく冷んやりとよどんだ空気を感じた。早朝の外の暗さが並でない感じがあったのは、空が厚い雲に覆われていた
                為だった。しかし、雲の色が重いのに雪を戴いた山の姿がわりあいとすっきり見える。静かに凍りついたようなロッキー
                の山々だった。
                 “これは雪になるかもしれない”

                 バスが走り出して、早朝に私が歩いた舗装道路を下り始めた。ホテルよりまだ上の山ふところにも住宅地が開発され
                ているようで、通勤の車が何台かバスを追い抜いて行った。バスは麓からボー河に至る平地にあるいくつかのホテルや
                ゆったりと構えた別荘のような住宅の脇を通って国道1号線に出た。

                 バンフの街で二人の若者が山男のいでたちで乗り込んできた。ロッキー観光ガイドの岡部さんとビデオカメラを担いだ
                竹内さんだ。まさに山男と言ういでたちの風貌とはうらはらに澄んだ声でスマートな自己紹介を始めた。
                 二人はロッキーの山々を好んでこの地に住み着き、山を歩いて岳人や観光客のツアーガイドをして暮らしているとのこ
                とであった。竹内さんの背に乗せたビデオカメラは早速車中、車外の光景を追い始めた。私たちのその後の活動も終始
                捉えられて、私は旅のビデオ収録を手にしたのは始めてであったが、後になって思い出を辿るのには素晴らしいものであ
                ると思っている。
                 竹内さんは我が故郷信州の北アルプス涸沢ヒュッテのご主人がおじさんに当たるとのこと、少年時代涸沢で過ごした生
                活が山男への誘いとなったとのことだ。いまだ夢を育ててロッキーを愛しているらしい。「涸沢もよろしく」と付け加えていた。
                 すぐに岡部さんが寺山さんからマイクを譲り受け解説が始まった。「生憎の天候のようですね!アイスフィールドの観光
                が中止になりそうなのが心配ですが――」どうやらコロンビア大氷原は吹雪になっているらしい。「途中確かめながら行き
                ますが、ボウ峠から先へは行けないかもしれません。」「えー!!」車内は一寸落胆の色を隠せない。その後岡部さんと寺
                山さんが、何回も携帯電話や立ち寄ったロッジやレストランで情報交換を行ったようだ。結局アイスフィールドの雪上車は
                運休が解除されなかったが、ボウ峠は越えられてアサバスカ氷河のビジターセンターまで行くことが出来たのは幸いであ
                った。

                 バスは国道1号線(Trans-Canada Highway)を北上した。国道1号線は太平洋岸ヴァンクーヴァー(ヴィクトリア)からこの
                カナディアンロッキーを越えてカルガリー、レジナを結び、ウィニペグの先マニトバ州とオンタリオ州の境界まで続く。さらに
                Trans-Canada Highwayはスペリオル湖畔のサンダーベイから国道11号17号と繋いでケベック州に入り、オタワ、モントリ
                オール、そしてケベックの北リビエールドルーからエドモンドストン、フレデリクトン、モンクトンを経て、ノバスコシア半島から
                ケープブリトン島へ渡り、シドニーのグレースベイで大西洋へ出る。なんと総延長7800km、広大な大陸を東西に結ぶダ
                イナミックロードである。その距離成田からバンクーバーまでに匹敵すると言うから驚きである。 私たちはこの1号線を走
                り、ボウ湖の入り口から  号線へ分かれてコロンビア大氷原へ向って行くことになっていた。
 
                 雪が少し落ちては来たものの不思議なほど空が明るく、山が良く見えた。バンフを発つときにはまだ人通りの無いメイン
                ストリートの延長線に、バンフの街を抱くカスケード山が雪をまとって美しく聳えていた。ハイウェイを取り巻いている山々の
                上には手にとどくほどの雲がガス状に降りてきてはいたが、思いのほか山は峰まですっきりと姿を現していた。国道1号線
                にまで来ると左の車窓から、バンフの街を見下ろすサルファー山(2451m)と、険しくも美しい雪の山肌を表すランドル山
                がくっきりと見えた。
                 ボウ河に沿った道路は谷あいの草原の中に続いていた。草原は山岳の岩を伴い起伏に富んで広がっていた。道路をま
                たぐ芸術的なアーチのような、ちょっと長崎の眼鏡橋のようなトンネルをいくつか抜けた。岡部さんが、それは「アニマル・オ
                ーバー・パス」といって公園内の動物たちにハイウェイを渡らせるための人工通路であるとの説明があった。
                 私は山々に見とれていた。岡部さんの山の解説ばかりが耳に入ってきた。のこぎりに似ているからソーバック連山、お城
                に似ていて見上げる方角により奇怪な変化を見せるキャッスル山(2728m)、ボウ河の彼方にピークをちらつかせたマウ
                ントランプル山、それぞれの山は窓からは連なった山々のように見えるのだが、バスが進むにつれて山稜の線を激しく変化
                させた。実はそれぞれ独立した山麓を従えていることがわかった。


レイク・ルイーズの岩山

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