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AMTRAKの時刻表と帰りの切符
Mr.マクナランからニューヨーク、ボルチモア間の旅は片道AMTRAKを使ったらどうかと奨められ、列車時刻表を送ってくれた
ので手元にあった。 ボルチモアへは、11日の10時発のメトロライナーか10時48分発の列車が良いのではないかとマークし
てあった。
先ずはこの切符を確保しなければならなかった。東京の旅行社ではどこへ行って聞いても入手の難易がわからず、Mr.マク
ナランには前日現地から乗る列車を連絡することにしたものの、ニューヨーク入りしてから自分で切符を手に入れなければな
らなかった。が、果たして容易く入手できるかどうか不安だった。そこで、JFKに着いてすぐガイドの白原さんに尋ねてみた。
「そう難しくはないのではないか」とのこと、少し安心した。
手元にある時刻表では、列車は何本もあるのでどうにかなるだろうと思っていた。 私は、9日の朝、朝食前の時間にペンシ
ルべニア駅へ向かった。パーク・セントラルホテルからはタイムズスクエアを通って約20分、8ブロック、散歩には手ごろだ。
マディソンスクエアの地下にあるペン・ステーションでは、7番街通りから入った一番奥にAMTRAKの出札窓口がズラリと並ん
でいた。しかも日本で見る銀行のCD窓口みたいな感じに、行列ロープが張られ切符の入手の煩わしさ、難かしさを連想してし
まった。しかし、早朝でそうは言っても列は短く窓口でしゃあしゃあと下手な英語を繰り出してみた。
「11日のペンからボルチモアまでの切符が欲しいのですが、」と言っているのだが窓越しの相手にはどうも通じないようだ。
向こうでも何か言っているようだがよく判らない。
今考えると、ゆっくり同じことを繰り返せばよかったのだと思う。相手もこちらの言うことが判らないので、聞きたいことを尋ね
ていたのだろう。無理して話をしなくたって、紙に書いて示せば済むのだったが、そこはそれ、現地で言葉でことが運ぶのは価
値ある経験なのだ。
やりとりを繰り返して受け取ったのは、確かにボルチモア行きの切符だった。どうやら何とか購入できた私は嬉しくて、“やれ
やれ”と窓口を離れた。ところが、フッと思い返すと“1人$34.は随分やすいな――、飛行機だと$202。だそうだから、それ
にしてもえらく違うものだな――”と安く買えた反面心配になり、待合室を過ぎて大きな階段を登りながら切符をもう一度確認し
てみた。
列車の指定が見当たらない。ただ11日から使用できるようになっているだけだ。
“これは本数の少ないローカル列車の切符だ!まずい!”
私はすぐさま引き返し、先ほど対応した若い男の係りを見つけて、
「すみません!私リザーブシートが欲しかったんですが」と申し出た。
その男は窓ガラスの向こうで何か言っていたが、隣の女性に対応してやれと指示したようだった。彼女は「What time
do you
want?」と聞いてくる。私は面倒なので大体でいいと思い、「Any time near 9A.M」と答える。クレジットカードの再提出を求められ
サインしろと言う。先の切符をキャンセルして、新たに1人$97.だとのこと。“それ位はするだろう”私はホッとして切符を受け取
った。そして又ギャフンとした。
“やや!、これは今日の8時発ではないか、Any time でも今日の八時はないぜ! 今から一番近いヤツを取ったな!”
仕方ない。又先程の男に「俺は11日のものが欲しいんだよ!」と叫んだ。
男は一瞬私を睨み返した。(何度も世話を焼かせやがってといった感じ)が、次の瞬間「Oh yes, I heard.」と思い出してニヤリと
し修正手続きに入った。私にはやっとこれでボルチモア行きの切符が手に入ったと言う訳だ。
会話が上手く伝わらないときは、自分の言いたいことをゆっくり、はっきり言い続け、余計なことを言わぬが良いことが良く解った。
気取らないことも肝要である。又、後でわかったことだが、AMTRAKについては本数も多く、席も多いのでいつでも簡単に入手可
能だ。ペンシルベニア駅には窓口以外にもいくつものインフォメーションがあり、落ち着いて案内係に訊ねれば難しいことはない。
そして出札は飛行機のシステムと同じように直前にゲートが示されるので、予め座席NOまで受け取る日本の鉄道と違うことを知っ
ていれば戸惑うことはないと識った。
11日、
9時発ワシントン行きの切符を持って、はなと私はペン・ステーションへ向かった。何となくトラブルを警戒しながら余裕を見て7時
半にはホテルの部屋を空け、タクシーに乗った。
ニューヨークのラッシュの中を走り抜けていくと、東側になる左手のビルの隙間から刺し込む朝陽の光に照らされた通勤の人々
が、様々な格好で道を急ぐ活動的な風景のなかにいる自分たちの存在を意識することができた。
マディソンスクエアからペンSt.の中央に着け、1昨日苦闘したAMTRAKのゲートに向かう。今度はインフォーメーションに寄り、
「この切符だと何処へ行ったらいいのですか?」と確かめた。私はゲートのNO を教えてくれることを期待したのだが、隣の待合
室で待てとのこと。なるほど、待合所があり、入り口には出入りをチェックする係りまでいる。
私はゲートに拘って、
「ゲートNoを教えてくれませんか」と聞くが、「I don't Know」とそっけない。
早くゲートNoを聞いて安心したかったし、切符は確かに9時のメトロライナーのものだが座席の指定がない。座れなかったら困る
のだ――。
そこへ、日本人老夫婦がウロウロしているのが眼に入った。私たちが戸惑っているのを見て、「私たちも良くわからなくて――」と
言う。8時24分のボストン行きに乗るのだが、何処へ行けばよいのやらとのこと。“もう8時5分ではないか!”
私はもう一度インフォーメーションに乗り出して、
「What No of Gate these ticket's」と彼らの切符を振りかざしてみたが、「I don't
Know」は変わらない。早口で“とにかく待て。なん
とかかんとか-―-”程度しか聞き取れない。私にはまだ時間があったが、彼らには時間がないのだ。
「とりあえず待合室に入りましょう。」と言って、待合に入った。
解からないと言うことは駄目なことで、結局待合室に居ればスピーカーが案内する。待合室にはテレビスクリーンがあり、空港と
同じシステムで次々と決まった出発ゲートを案内しているのだった。
困った老体同士、お互い一緒になって駅の係員に聞いたり、通りかかったPolicemanに教わったりして、このことがやっと理解で
きたのだが、後で考えると、英語では乗車のこともabordと言い、走ると言わずBound forだった。結局飛行機並みで良かったのだ。
老夫婦はやっとのことで8時20分頃、9番ゲートからボストン行きのホームを確認し笑って出て行った。早朝ワシントンを出てきて、
ここで乗り継ぎとのことだった。「ワシントンは蟹がうまいから是非食え」と言い置いて行った。
私は蟹のことよりも、彼らが間に合ったことよりも、ワシントンを早朝発って今頃の時間ここに着く列車があることが確かなことを
知って安心した。マクナラン氏の時刻表では9時前にペンSt.に着く列車のことは不明だったし、パークセントラルホテルのコンサル
ジュはAMTRAKのワシントン発は1番が7時半だと言っていたのである。
私たちの13日の帰国便は、12:15JFK発の全日空だったので2時間前を想定すると9時にはペンSt.に帰っている必要があった
が、その日の朝発つことも可能だ。10日の朝もペンSt.で確かめたのだが一抹の不安があったから――。
やがて、私たちの乗る列車についても10分前になってスピーカーから案内があった。テレビの案内もゲートNo16と出た。
解かるとなると何と明瞭なことか。乗客がそれらしくパッと動作するのさえ見えてくる。私たちも皆に従った。
地下のホームには列車が既に入っており、体の大きな車掌が切符を見て入り口方向を指差した。どの車両でも勝手に乗って良
かった。比較的後方へ行った。座席の指定は乗る前にも行われなかった。室内はガラガラで動き出してから車掌が来て切符を切り、
座席の天井に切符を止めていく。これが指定席になるのだった。
“――なーんだ、そうか――”
列車は定時にスタートした。広い座席の割りに窓は小さく、デラックスな椅子のわりに窓辺が汚れている。列車の揺れが固く響い
てきて、“とても日本の急行並みとはいかないなー”と思った。列車が地上に出たときはもうハドソン川を越えてニュージャージーの
田園風景になっていた。マンハッタンの高層ビルが見えていた。
私はやっと安心しきって、暫く窓の外を眺めAMTRAKの旅に没頭しようと努めた。
途中フィラデルフィアで市街地らしい雰囲気を眺めたほかは大きな街らしいところもなく、ひたすら野を走り、河を渡り、沼をかす
めると言った感じの車窓であった。時には荒野を走るような風景にも遭遇したが、天気が良かったので遠くまで見渡せ町並みの少
ないのはむしろ清々しかった。
結局AMTRAKは13日ニューヨークへの帰りも使うこととなり、そのときはborutimoa/wasinntonn/airport駅からペンSt.までの旅を
もう一度楽しんだが、1度経験すると勝手がわかるので車内のスナックも利用し、席も空いてさえいれば広々と自由に使えたり、小
さくならずリラックスしてかなり楽しめた。
帰りも好天で河と沼と野原、そして少々の街並みこそ変わり映えのしない車窓ではあったが、2時間半と言うボルチモア〜ニュー
ヨーク間の列車利用は格好な地上旅とも思える。
この旅の私たちのAMTRAKは乗ることに無我夢中だった感があったが、途中下車する時間を組み入れてぶらりとすればもっと楽
しいと思う。
ペンST.の待合のはな