BGM TAM Music Factory
Central Park の名残の秋
1日ボストン行きを遅らせることになったので、その予定は無かったのだが、はなとマンハッタンへ出かけること
にした。景気が悪いときであってもマンハッタンは1年中混雑していて、いったいニューヨークの景気がどうなのか
など、その様子からなかなか解るものではない。が、気にはなる。
ここで不景気を感ずるようになれば、それこそ世界的などん底景気ということなのだろう。と、私は思う。
そういった意味では、まだまだ世界経済は本当に大丈夫なのかもしれない。
人はセカセカ、またはサッサと街を歩き、信号もまともに待たず、車はけたたましく警笛を発して走る。人も車も、
それに加えて時々やってくる緊急車両のブースカ、キャースカのサイレンが、ニューヨークらしさとでも言おうか。
ロックフェラーセンターも全くいつもと変わりない。季節変わりでスケートリンクが出来、クリスマスを控えたイルミ
ネーションが少し増えただけだ。
しかし、5番街のショッピングストリートを歩くと、ここでは今回はテナントが無くて空いているフロアーを見たから、
やはりこの世界では深刻さは否めないということだろう。
通りの車は数年前から比べると小型になった。
○
気晴らしに、久し振りのセントラルパークへ足を向ける。
セントラルパークの紅葉は、丁度ピークを迎えたところで、楓のオレンジ、もみじの赤、ところどころの針葉樹の
グリーンが対比を強めている。
平日だからウールマンリンクには子供たちは少なく、若者といっても遠来の客たちか、スケートの人気はあいか
わらずである。
背の高い銀杏の黄色が輝き、背後に並ぶ灰色のビルの風景にアクセントをつけている。公園内のレンガ造りの
建物が木々に埋まるようにひっそりと見える。
昼下がり、ウールマンリンクの近くの大きい岩の上に登り、昼食を拡げながらあちこちを眺めていると、最近はカ
メラを自分たちに向けて撮影する二人連れが多いのに気がついた。カップルの振る舞いが違和感無く奔放なのが
気になる。この点はまだアメリカにはとても敵わない。
散策していると、はなが、道路沿いのベンチに掛けているところを写真に写してくれという。
確かにその長いベンチはカーブした道路に沿って、果てしなく繋がっているように見えてユニークだ。しかし、いつ
か来た初冬の時には、この道路沿いの長ベンチにホームレスたちが寝そべっていたのを見た。これはかれらの為
のものとの意識が働いてイメージが良くないので、私は少し戸惑ったが、拘るほどのことでもないとシャッターを切っ
た。
その道路は、公園を東西に横切って配置され車両も行き来する大通りであるが、観光用のリンタクや馬車が悠長
に連なって通っている。
ベンチから眺めていたはなは、馬車の馬の足がいかにも太くスマートさを呈してないのを嘆いていた。私にも重労
働を強いられているのは老馬に見えてすこし可愛そうに思った。ただ、馬にはそう負担がかかってはいないのだろ
うか?みな元気にパッカパッカ首を振りながら過ぎていく。乗っているのは子連れのファミリーが多く、楽しそうでこ
ちらは文句なく微笑ましい図ではあった。
○
グランドゼロ
地下鉄でシティーホールまで行って、東に向いたシティーホールの正面に倣うかのごとくブルックリンブリッジを眺
める。
そこに立つと、緩い坂になって大きなブルックリンの吊り橋へ向かう広い道路が、東の彼方の希望に向かってい
くように見えて気持が良い。
この橋はニューヨークの象徴のようにマラソンにも使われるし、橋の袂のピア17や対岸のリバーカフェからは、背
景に背の高いビル群とのセットで豪華な夜景の名所にもなっている。
五番街、ロックフェラー、そして地下鉄でニューヨークの雑踏に触れ、ここに立ってからグランドゼロを廻ってニュー
ヨークの時を確かめるのが、ここ数年マンハッタンを訪れる私たちのお決まりコースになってしまった。
シティーホールの周囲には大きく育ったたくさんの木が植えられている。これから冬に向かへば、その中の樅の
木は大きなクリスマスツリーに変わって市民に親しまれるのだが、今は落葉を間近にした赤や黄色に染まった木々
に囲まれた公園が、観光客で賑わっているのだった。
ブロードウェイとヴェセイストリートの交差点を西へ向かって1ブロックのところがグランドゼロである。
WTCがあった頃は、特にその北や西側は日陰の小路みたいな感じのところだっただろう。工事現場に近い雑然と
した雰囲気は否めないが、高いビル群がなくなって少し陽が入る街になったような気がする。
ヒルトンホテルの前からひとまず工事の様子を眺めると、ファイナンシャルセンターの四角で長いビルを背景にして
眼の前に工事現場のクレーンが上がっている。
「いよいよ立ち上がるか!」と感激に似た思いがこみ上げてくるのだった。
今、周囲はビニールシートで包まれているが、ここにあった4棟ののっぽビルはアメリカが世界ビジネス中心として
の繁栄を誇る象徴的な造形であった。ミルクカートンと揶揄される2本の長い四角の塔が、脇に半分ほどの2本の
塔を抱えた格好での味気ない風景ではあった。
私も勤務していた会社の米国オフィスがあったので、3回ほど出張してきたことがある。90階にあったその部屋か
らは、遠くに「自由の女神」が見え、反対側にエンパイアステートをはじめとするマンハッタンのビル街を広く眺めて、
ビジネスマンとしてニューヨークに来た感慨を深めた思い出もある。
「9.11」で破壊される前にもあったテロの直後に来たときは、入館証のはしりとも言える写真撮影のチェックが採
用され「かくも厳しく」と思われたものであったが、今は何処でも当たり前になってしまった。そしてその場は見上げて
も青空だけの状態になった。
右回りでいろいろ注意書きの施された青いビニールシートの壁に沿い、薄日の差す中を歩き始めると、本当にいろ
いろな国の人たちが訪れているのに驚く。互いに交わしている言葉と身振り態度、それに服装のさまが、各様に違っ
て、通り過ぎていくのだ。
その先に案内所と近くのビルの一角に開設されているメモリアルセンターがあるのだった。
シート囲いのないところは一見駅の弧線橋のような形をしたブリッジの通路になっていて、そこを歩きながら工事現
場の様子が伺えそうなのであるが、何故か丁寧に目隠し状態になっている。隙間からのぞくことが出来る程度だっ
た。
毎回の見参で工事の状況が良く伺える場所であることを知っている西側のファイナンシャルセンターにはいり、開
放されている二階のロビーから全容を確かめる。ここから眺めるのが良い。
南側の通路に向かい、ブリッジ通路を下りたあたりのビルの壁に設けられた犠牲者のプレートに黙祷を捧げると、N
Yに対する一つの義務を終えたような気分になれて区切りがつく。そしてヒルトンの隣にある公園でワゴン販売のコー
ヒーを買い、はなと二人でベンチにしばらくの時を委ねて過した。
今度見るときは、以前とは一変するだろう。
ビルも立ち上がり、民衆の為の公園などが開放されているだろうか、聞けば今は資金が不足していて予定通り工
事は進んでいないようである。折りしもの不況ではいたしかたもないのであろう。
願わくば、平和な社会への出発に相応しい造形を見たいものである。
(風次郎)
グランドセントラルの建設状況