09ニューヨーク・ボストン 紅葉の頃

                                                  BGM TAM Music Factory

  
Harrison の紅葉

(1)West Chester

       ケネディー空港から、長男が手配してくれた車で全日空が到着したターミナル7を出る。
      空港を離れたあたりの木々はまだ色付いた葉を着けたままである。「十分な紅葉の季節だ!」
       はなも久し振りのニューヨークを眺めている。
       運転手は岩国生まれだと言った。しかし、東洋人ではあるが、日本語は殆ど分からないようで、日本人ではな
      さそうだ。仕方なく、私の方が英語を使う。
       「紅葉が綺麗に残っていて良かった」と感想を言うと、「今週半ばまで少し寒かったが、今日は暖かで過し易い
       」と言った。
       良かった。せめて滞在中暖かであってくれればと願う。
       30分も走ると、ホワイトストーンブリッジを渡ってブロンクスに入った。
       ここから95号線へ移ることも最近は分かるようになった。ハイウェイは、丘陵地の間を、ほぼまっすぐに北上し
      て行く。ウェストチェスターに入る。
       やはり期待通り、そのあたりの雑木林は既に色付きも濃くなり、昼に近い高い陽を受けて秋を謳歌するごとく
      風に揺れている。動いている車の窓から見ていると、キラキラと輝くにように見える。
       日本で見慣れている雑木林に比べれば楓が多いが、樫やコナラといったもみじに似通ったオレンジ色のものも
      多い。道路に沿って続く丘陵地帯の森の色を眺めていた。
       やがて、95号線を離れハリソンの町、といっても森の中であるが、そのいくつかの起伏のある道路を長男の
      家へ向かっていった。
       「どこも綺麗だね!」と、また運転手に語りかけるが。「そうだね。」の一言だけで、
       「今日は、MATSUIのパレードがあるんだ。」と、彼には先日優勝したヤンキースの方が関心事であるのだろう、
      私が関心の高い紅葉の風景については乗ってこない。日本人は皆、松井選手のフアンだから、私たちに教えて
      いるのだったかもしれない。
       日本語は駄目だと言うが、岩国で生まれて20年も住んだと言う。それも、基地の中での生活ばかりだったか
      らなのかも知れない。

       アメリカ大陸は広く大きい。だから、出会う風景も、それ相応のダイナミックさをともなうように思う。
       ウェストチェスターはマンハッタンからブロンクスを隔てて北、ハドソン川からロングアイランドサウンドと呼ばれ
      る湾に至る森林緑地の一帯で、格好な住宅地域でもある。平地や泉にも恵まれ、日本的に比較するなら、六甲
      とか、軽井沢の雰囲気である。ただ、各戸の規模は大きく、私から見ると、贅沢な住居ばかりである。
 
       ハリソンはグランドセントラルからニューヘブン行きの鉄道で約40分程のところである。
       もともと、ボストンポスト(アメリカスタートの頃から郵便配達が通った)と呼ばれる国道1号線(ボストンからキ
      ーウェストまで)沿いの町である。海岸から遠くない段丘は、ところどころにむき出しになった岩場の上に広がっ
      た森であったらしく、住宅地になった今でも芝生に黒い岩が庭の構成に取り入れられている家が多い。住宅地
      の間に残る林もまた起伏をともない、風景に趣を添えているようだ。

       長男の家に到着すると、昼食もそこそこに、私はそのボストンポスト沿いの住宅地のへ、散歩がてらの紅葉見
      物に出かけた。
       家からの道はハリソン駅の見える小高い場所に架かった陸橋を越えて行く。その先には孫娘の通うエレメンタ
      リースクールがある。学校の道路側はプラタナスの並木で、これは既に落ち葉の時に至っていた。葉は大きいが、
      ただの枯葉にすぎない。歩くとガサガサと音が響く。
       学校は就業の時間だった。屋外授業は行われていないようだから外は静まり返って、生徒が退校する玄関の
      前には、柳の木が長い枝葉を黄に色付けて揺らしていた。
       私の歩いていく道路は、学校の角でライとママロネックという隣町を結ぶメイン道路を横切って、海に近い方へ
      続いている。 このあたりは、一帯を区画された住宅地で、それぞれの屋敷は玄関までの間がほとんど芝生の中
      のアプローチに何本もの木が繁っている。中には樅の木や松ノ木といった常緑の木も混じるが、家の前庭に似合
      う格好で配置された楓の類が、赤や橙を競うほどに葉を染めて美しい。
       住宅地の中に、ハリソンの駅の方から一筋の川が低地に流れ込み沼地になった場所があり、私は橋を渡った。
       橋から眺めると、周囲が赤や黄色の鮮やかな色で賑わっているので、空を映した水の青も思いのほか濃く、こ
      ちらの橋と平行して架けられた木の橋の向こうの水辺に、枯れて立つススキのかたまりが、飄々とそのグレーの
      存在を目立たせている。水鳥が戯れて遊ぶのも見られた。
       沼地の水はボストンポストを横切り海に流れるのだ。
       私は引き続き住宅の続く舗装された道路を進む。
       家はほとんどが2階建てで、大小さまざまにディザインを違え、見る眼を楽しませてくれる。日中のせいか、ほと
      んど人影が見えないのだが、お洒落なつくりの住宅には、玄関の上や横並びにデッキをしつらえて、そこに置か
      れた椅子に老人が座っている姿も見られた。
       風景として、微笑ましい。
       いわゆる中流の、たとえばサラリーマンをリタイアした人々が求めて住まう豊かな風情を感ずる。
       ボストンポストに近くなるにつれ、それぞれの家の区画はとても広くなって、各戸は森の中の家と言って良いほ
      どである。
       米国では良好な住宅地は車のアクセスが良いところが選ばれる。ニューヨークで車社会のはしりに財をなした
      人々は、この街道沿いに邸宅地を確保し、贅沢な暮らしをし得たのであろう。国道はシティーとのアクセスに便利
      なことに加えて、この辺は海も近いからプライベートビーチを有しているというほどの個宅も多い。
       ボストンポストロード(国道1号線)と海辺の間はそんな大邸宅が並んでいる。と言ってもそれぞれのお屋敷は
      森の中にあるから門から続くアプローチの遥か向こうである。映画「風と共に去りぬ」で見たような、あるいはニュ
      ースでお目にかかるホワイトハウスの庭といった芝を貼った庭の先に富豪の住む建物の一部が見えるといった
      具合、さらに、建物の向こうは海辺とくれば圧倒されてしまう。
       雰囲気を味わうぐらいは赦されると言うものだろう。
       その為に、ここに来れば、私は1号線を横切って、そこにあるライゴルフクラブのクラブハウスを訪れることを欠か
      さない。道路からはやや入るが、左手に細長い池を隔てたテニスコートやプールを眺めながら、広いアプローチを
      歩き背の高い樫の木下を通って石造りの建物に近づく。
       恐らくヨーロッパから移ってきた富豪が、合衆国になる前に建てたものであろうと思う。「White Castle」 と呼ば
      れ、お城の形をしたホテルほどの建物で、一般に開放されているレストランは大小のホールやバーをも備えてい
      る。ティールームではコーヒーも楽しむことができる。
       一度ハウスを離れてコースの方へ歩いてみたことがあるが、両脇に森を抱えたグリーンの先は、砂浜と海の広
      がりで、眺めるだけでも何とも言えない贅沢な開放感を味わえるレイアウトだった。
       今、色濃い秋に染められた周辺の森に囲まれた中で1日のラウンドはどんなに楽しいことだろう、と憧れながら、
      ティールームのマスターと少しばかりの言葉を交わして去る。 
       樫の木の緑が取り残されたように、一面に広がる色づいた木々の林が続く雑木林が1号線沿いに何処までも続
      くので、ついついその日は隣町ママロネックの港近くまで歩いて行ってしまった。

                                                        (風次郎)
              

   
  国道1号線(通称Boston Post)

           
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