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風次郎の世界旅
 イベリア半島駆け歩き
  [スペインとポルトガルの旅]

music by KASEDA MUSIC LABO


夕暮れのイザベラU世橋
                     

 (10)セビリア

               バスは夕陽を浴びつつグワダルキビール川を渡って市内に入る。
               セビリアはとても好印象を持った街である。
               ここは音楽にちなんだ物語の街、私の好きなビゼーの手になる「カルメン」の舞台であり、ロッシーニの「セビリアの理髪師」
              もそうだ。モーツアルトでさえこの街を舞台に「フィガロの結婚」「ドン・ ジョバンニ」を書いている。
               この地はもうアフリカとの接点ジブラルタルよりも西に位置する。100キロ先、大西洋に面したカディスまで船舶が遡航でき、
              歴史上も港湾都市としての役割を果たしてきた。ローマ時代からイタリカ(現遺跡)と通ずるイスパニアの重要拠点であった旧 
              い都である。

               私たちはイザベル2世橋を渡って、そこに近い「ベッケル」という詩人の名前を使ったホテルに宿を取った。ベッケルはスペ
              インのリルケと称せられたセビリア生まれの詩人である。
               グワダルキビール川に沿ってカルメンの舞台となる闘牛場、タバコ工場が続き、その先に19世紀に市民のためにつくられ
              たマリーア・ ルイーサ公園には、彼の詩「詩ってなあに」を刻んだ記念碑が立っている。

               部屋を宛がわれると、私は街の雰囲気に浸りたくてすぐに通りへ飛び出した。
               ホテルの前の通りは、夕暮れの勤めを終えた人々の社交場となって、店舗の飾り窓に沿って並べられたテーブルが、市民が
              憩う場所にどんどん変わっていくのだった。
               若者の二人連れ、紳士たち、或いは婦人も加わった談笑。
               春の夕暮れを語らいで過ごすのびのびとした風景は、見る者にも心の安らぎを与えてくれる。
               長い時間を経て受け継がれ、それがヨーロッパの風習を作っているのだろう。と、こんな雰囲気を羨ましくも思うのだった。
               そんな街の雰囲気に浸りながら、そんな人々の間を抜けて歩き、ついさっき渡ってきたイザベル2世橋を越えて反対側の袂へ
              行ってみた。
               そこで暮れ行くセビリアの街並みを眺めて過ごすのも幸せな時間であった。
               上流にはプラザデアルマス駅が、そしてひとつ下流の橋の袂には「黄金の塔」が見えた。

               セビリアでは先ずディナーショーの劇場フラメンコを観賞した。
               グラナダで観た素朴な洞窟のフラメンコと比べると、又異なる嗜好の舞台であった。こちらは楽団の演奏も何組か加わり、踊り
              子たちも何組かがペアーで入れ替わり、それぞれの持ち味を見せてくれた。
               本場アンダルシアのフラメンコは、カンテ(唄)がその主体で、バイレ(踊り)はそれを体で表現したい姿そのものであると耳にし
              たのであるが、しかし、あの激しさ、すさまじさを伴う踊りの印象が、見る者の眼を惹き付けて離さず、外から来た者には踊りが
              主体であるがごときに映る。そして、やはり巨体の婦人がカンテ、ホンドを唄う場面があり、伝統あるフラメンコの幾つかの流れ
              をショーにして観賞に導かれた。
               街の通りにまで「オーレ、オーレ」と響いているような気のする宵であった。

                                                  ○
 
               セビリアの早朝の街は、昨夕の名残は跡形も無く消えて、静かな佇まいであった。
               私は再び昨夕人々で賑わう中を歩いた通りのショーウインドウの前を歩き、川の辺へ出て、今度は直接闘牛場の前へ行ってみた。
               闘牛場の扉も固く閉ざされ、中も全く覗くことさえできない。川筋の広い通りから、門の前へのスペースが広がっていて、円形の
              外周へ繋がっている。ドン、ホセがカルメンを追いかけたのはこの辺りだろうかと、思案を巡らしつつ歩いていく。

               薄暗い夜明けの街がどんどん明るみにさらされる時間である。
               ヨーロッパの旧い街は、どこにも時代を耐えてきた石畳が敷かれ、街角は細くなり、広くなりして迷路のように歩く者を誘うようだ。
               ところどころの店からは、夜も消されずに灯し続けられているらしい明かりが漏れて、夜気に濡れたその舗道を光らせていた。
               通りを進むにつれて、人影はちらほらからそこここに増え、シャターの開く音が響き始めるのだった。店の壁に飾られた花は春
              を楽しむに欠かせないモチーフであることを訴える街角に誘われいくつも曲がって巡り歩くのであった。

                                                  ○

               朝食後ガイドの案内で、世界遺産セビリアの大聖堂とアルカーサルを訪れる。
               大聖堂は、16世紀に完成したセビリアのカテドラルである。数日前トレドで見てきた大聖堂と、スペイン最大を互いに言い張って
              いるとのことだ。私の見た感じでは構内が広いだけこちらの方に分があるように思えた。
               朝陽に照らされて建物の彫刻がくっきりと浮かび上がり、充分な見応えがあった。
               一部外壁にお城で見られるような、円形のカーブを描いて造られているところがあり、その向こうに四角い角のある高い鐘楼が
              建っていた。ここも回教徒の聖堂からキリスト教へ移り変わった歴史の跡を示している。
               塔は「ヒラルダの塔」と呼ばれ、元は回教徒のミナレットであり、高壁には格子網状の模様が施されていた。又全ての建物の屋
              根には天を目指す無数の尖塔があった。
               内部にはクリストファー、コロンブスの墓があった。
               そして橋のある堀を巡らせた美しい庭園を通ってアルカーサルへ行った。
               城壁の緑に黄色の弦花が咲いていた。
               こちらでは建物よりも人形のパティオ、乙女のパティオ、ライオンのパティオ、モンテーリオのパティオ、バンデーラスのパティオと
              いった沢山のパティオを巡り、メインの庭園を歩いた。木々や花がふんだんに植えられていた。花の名前はブーゲンビリアしか分
              からなかったが、まるで花園の散歩だった。

               とにかく街を歩くのが楽しくなる明るくて情緒のある街であった。
               アルカーサルからかつてのユダヤ人街であったサンタクルース街を歩き、セルビアの印象に後ろ髪引かれながら次の街へ向か
              う為にバスに乗り込むのだった。

      
  アルカサルにて

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