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風次郎の『八ヶ岳山麓通信』 No249
 
      雪原の八ヶ岳連邦 (2016/1)

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                     雪の山麓へ
 
                                  正月も半ばを過ぎた1月17日から日本列島は全域が大陸から張り出してきた寒気に覆
                                 われて、記録的な大雪に見舞われた。沖縄でも歴史的に珍しい雪降りになったり、九州や
                                 四国の温かいと言われる地域がてんてこ舞いをしているニュースをテレビで見ることにな
                                 った。私は東京の自宅にいたが18日の朝は20センチの雪に驚かされ、玄関先から道路
                                 の雪掻きをするという大雪だった。

                                  八ヶ岳山麓は豪雪と言うほどは降らないところだがが、それでも西麓にある富士見高原
                                 地帯の里にも6~70センチの雪が積もった。と、南天寮の近くに住む友人が知らせてく
                                 れた。
                                  その後の様子を見に出掛けたのは28日になってしまった。
                                  寒の中休みで3日ばかり好天で暖かな日が続いていた。
                                  いつもの通り朝まだ暗い国立の街を駅に向かい、八王子から電車を乗り継いで山梨県境
                                 のトンネルを抜けた勝沼あたりからの眺めを期待して車窓を待つと、朝陽に照らされる甲
                                 府盆地とその背景に遥かに連なる南アルプスを眺めるのである。
                                  慣れた山国に向かうとはいえ、常に「これぞ新鮮な朝だ!」と思いつつのことである。
                                  甲府盆地の雪は、かなり融けて白一面と言う訳ではなかったが、家並みの向こうの山麓
                                 あたりからは広域の朝靄がたちこめ、そして爽やかに連なる稜線と白い峰々に陽の光が届
                                 いて煌めきを送ってくるのである。空気の澄んだ季節は山は殊に美しい。
                                  そして甲府からは八ヶ岳の眺められる車窓が始まる。こちらも山腹は裾野まで白く雪の
                                 里と連動した風景であった。深い雪に埋もれた車窓に変わったのは長坂あたりの様子から
                                 であった。

                                  南天寮のある富士見の駅は標高が960mで中央線では最も高い。駅のホームには乗客の
                                 乗り降りするスペースを確保する為に除けられた雪がうず高く積まれている。寒い地域だ
                                 から一旦降った雪は中々融けない。
                                  氷のように固まった雪の駅前広場を横切り、車の轍で舗装が剥き出しになった歩き易そ
                                 うなところを辿って寮の入り口まで来ると、玄関までの木戸道は案の上、足を取られる程
                                 雪が積もったままである。恐らく郵便配達の人が入ったらしき足跡を見つけて、これ幸い
                                 とその跡を30m程踏み込んで玄関までの道を付けた。壁際の軒下が埋もれてなくて助か
                                 った。
                      
                                                               ○

                                  風も無く燦々と降り注ぐ冬の陽は、庭に万遍なく広がる白い雪原を輝かせているようだ
                                 った。椿や皐月などの植栽の上に積もったところは、その雪も所々崩れかけて日数の経過
                                 を知らせ、その間太陽が溶かしにやって来たことを知らせているようにも見える。
                                  まだ午前中が終わるには1時間の余ある。
                                  寮の様子に異常のないことを確かめるにそう時はかからなかったので、日差しの良いこ
                                 とを頼りに雪原を歩いてみることにした。

                                  里山に入っても雪の深さは30cm位だった。
                                  履いて行った登山靴はズブッと埋もれてしまうが、それはかえって心地良かった。日当
                                 たりの中、暖かな銀世界であった。
                                  林の斜面で、ビニールを敷いて雪中に腰を下ろすと、辺りの静けさに圧倒させられる程
                                 の感があった。沢のせせらぎの音も雪の下からでは響きを失って届いては来ない。ピキ、
                                 ピキ―ッと言う小さな音は、凍った雪が緩んで樹から離れていく音なのであろう。遠くで
                                 ドサーッと高木の枝からボタ雪の落ちる音が聞こえる、といった風に自然界の音が無機に
                                 有るだけなのだ。 
                                  ふと、日向の斜面に立つ木は根元を地面に露わにしていることに気が付いた。丸く幹を
                                 囲むように雪が溶かされている。――ああ樹達の温かみで雪が融けるのが早まっているん
                                 だな、と思ったがそれは単なる感情での推測に他ならない。
                                  日当たりの中で見える限りの木々達は同じような丸い図形の中から立ち上がっている風
                                 景であった。その根元から伸びる影は、昼とは言え冬の斜めの光に促されて白く光る雪原
                                 にいくつもの灰色の線となって広がっているのだった。それはそれとしての冬景色と言っ
                                 ていいのだろう。

                                  幾つかの林を、土手を伝い、畑を渡っては訪ねて歩いた。そして最後の林を抜けたとこ
                                 ろにあった広々とした丘の先には、これも静かに、平和な里を見下ろしているような八ヶ
                                 岳の連邦を仰ぐ事が出来た。その西斜面にそそぐ陽光が、只管明るく強く反射しているか
                                 に見えるのだった。
                                  冬の静かな昼のひと時がもたらしてくれた、ささやかな自然との寛ぎの時であった。
                                  
                                                                           風次郎
                                                                                


富士見町図書館から八ヶ岳(中央は町役場)

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