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風次郎の『八ヶ岳山麓通信』 No200

  
紅葉の季節・富士見からの八ヶ岳と富士(09.11)

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                                                     2009年12月13日
紅葉を見に富士見へ                         
                                                    風次郎
                                                  fuujiro@jcom.home.ne.jp

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 南天寮の秋を確かめながら、そろそろ庭の片付けにも掛からなければと思っ
ていた10月の半ばだった。 
 今年の10月は、東京でも下旬になって本物の冬を思わせる日が数日あった
くらいだから、富士見では南天寮の水道を凍結させてしまい、あたふたしてし
まったのである。
 しかし急激に気温が下がる年は、木々の葉はまだ緑がくたびれないまま
で紅葉へ移行するので、山はいつもの年より色鮮やかと言っていい。
 自然はこんなことも織り込み済みで動いているのか、10月初旬に始まった
八ヶ岳山麓の紅葉も素晴らしいものだった。それが下旬の急激な寒さ到来の予
告だったとは、言い切れるものではないが――。

 私が中央線の列車に乗って富士見へ向かうのは、国立ではまだ暗い早朝であ
る。その日も星を見ながら、気持ちの良いホームに立ち、がら空きの電車に乗
って旅立った。
 山の端が白み、街の明かりが力なく移り行くように見えてくる頃、列車は大
月駅を出て甲府盆地へ向かう笹子峠にさしかかる。
 昔からスイッチバックで学校の教科書にも載った笹子駅を過ぎて登っていく
のだが、そのあたりは、まだ少し色づいたかなと思うほどだった。
 トンネルを越えて、勝沼駅から見下ろす甲府盆地も、紅葉には間がある時期
で、一面の葡萄畑風景も緑の海のままである。

 富士見ははたして、と思いつつ甲府駅を出る列車の車窓を眺め続ける。
 甲府駅を出るとすぐに八ヶ岳全容が見え始めるから、そこは八ヶ岳を見るた
めに欠かせない。晴れた車窓は良い。
 朝の中央線列車は、スピード感は無い。そして晴れていれば丁度日が昇る時
間に出くわすことが多いことも楽しみだからだ。
 その日は柔らかい朝陽がやっと八ヶ岳の峰を照らし始めようかというところ
だった。
 八ヶ岳の峰は数日前の初雪がほんのりと白く見える。紅葉は始まっているに
違いない。

 列車は韮崎駅を過ぎると八ヶ岳の裾野を登り始めるのだが、八ヶ岳だけでな
く周囲の山々を眺めるのには、日野春駅あたりが絶好のポジションである。
 目前の茅が岳越に甲武士、金峰、さらに雲の海に富士も大きな姿を浮かべて
いることが多い。これらは朝は逆光になるので、眺めは午後が良いのだ。朝な
らば、釜無渓谷を隔てて西の南アルプスの山々、そして豪壮な甲斐駒を眺めて
悦に入るのもここである。殊に朝陽に光る駒ケ岳は絶品である。
 日野春からの八つは、南麓が茅が岳に及ぶまでの広がりで眺められて雄大で
ある。長坂、小淵沢とぐんと近づくにつれ、険しい権現直下の岩壁まで見極め
ることが出来るようになる。
 南斜面は日当たり良く暖かいから、私の向かう西側の富士見に比べると新緑
は早く、紅葉は遅い。それでももう峰に雪を見れば、直下から次第に山は秋に
染まって降りてくるのである。
 主峰赤岳の手前、登山ルートになっている牛首山の頂上あたりにまで色付き
が及んでいた。標高1500mといったところだろうか。
 小淵沢を出ると、八ヶ岳南麓から千曲川沿いを小諸まで走る小海線と分岐す
るあたりも南麓を眺めるには良いところだと思う。ススキが背高く並ぶ彼方の
、山の中腹まで続く林に、朝陽が秋の明るさと爽やかさを投げかけている。
 やはり、すでに紅葉の季節であることが確かめられた。

 列車が信濃境から先、富士見に到着するまでに3つのトンネルがあり、暗転
する窓は、トンネルを出ても山間の掘割に風景を閉ざされる。3つ目のトンネ
ルに入る前に中央線で最も高さのある立場川鉄橋を渡る。
 トンネルの中では、こもったように反響していた列車の走る音が鉄橋にかか
ると、反響を失って、レールの継ぎ目で区切った「ゴー」という軽めの音にな
るが、ここで、富士見の近づいたことを知るのである。
 下車の準備をしながら、私は、ここでも必ずと言っていいほど、立場渓谷か
ら立ち上がる八ヶ岳を見上げることにしている。
 西岳ばかりが正面に大きく、権現と編笠が脇に寄って小さい。谷間に瀬沢部
落の家並も見え、富士見の里を感じさせる八ヶ岳風景と言えよう。

 トンネルの暗さを抜け出て見る、朝の富士見の紅葉は、もう里まで来ており
、渓谷の斜面を埋めているカラマツ林も既に黄味を帯びているのであった。

 富士見の駅に降りると、ロータリーの先にある小さな公園には、白樺が数本
立っている。この町は昔から白樺の似合う町と言われ、戦前の名作映画「月よ
りの使者」では挿入歌で――白樺揺れる高原に――と歌われた。
 そこの白樺はまだ枝いっぱいに葉を付けていたが、黄味を帯びているから、
2、3日もすると散り始めるかも知れない。白樺の葉は落ちるのが早い。
 南天寮の白樺のことも気になっていた。秋の歩みの速い富士見では、先ず白
樺の黄葉がその先駆けだからである。

 5〜6分歩いて南天寮に着くと、1番先に南側の廊下を開いて白樺の林を見
た。黄葉の盛りだ。落葉もまだ始まってはいない。枝は陽の光を受けて静かに
光り、葉の黄を強調している。
 ここの白樺は、父母が逝ってしまって私がこの家を預かったときに、本家の
山からもらってきたものが育ったのである。最早幹は20センチを越えるまで
になって、白樺林の貫禄もついた。
 もともと畑だったところを山にしてしまったのだから近所への気兼ねもあっ
て、大きくなりすぎたので、そろそろ頭を止めねばと思ってはいるが、なかな
か思い切れないでいる。作業も大変だが、木を痛めることには、普通の剪定と
は異なる躊躇がつきまとう。

 南天寮の庭には古い松のほか、桜、もみじ、木蓮、栗の木がある。
 桜ともみじは既に葉を赤く染め始め、栗や柿など実をつける木はその収穫期
を終えきらないために、まだ紅葉は控えているのだろうか。栗の木など青々と
しているのだった。
 色づく庭を眺め回すと、随分と種類も多い。
 ヤマアジサイ、桑の木、藪椿、などは背が高くならないように春も秋も手を
入れる。低木では、空木(卯の花)やゆきやなぎ、萩、紫式部、グミの木、ど
れも前回来たときに手入れを終えた。
 敷地の周囲には常緑のアララギを植え込んでいるが、これらと松のほかは既
に赤や黄色、それぞれの特色をあらわに秋の色を表現しているようだ。
 今回も数日の山麓暮らしを楽しませてくれるであろう。

 もっとも、この秋の色に囲まれて過すにも、山の風景を楽しむのには風が欠
かせない。
 木は揺れることによって自然を謳歌しているように思う。
 秋晴れに最も相応しいのは微風であろうか。強く吹く風は天候をさえ左
右しかねず、往々にして風情を欠く。
 昼を過ぎてからの”そよかぜ”を楽しみにしよう、と思った。
 美しい紅葉に期待できそうな八ヶ岳山麓の今日に満足しながら、せめて南天
寮の庭を眺めつつ一人での贅沢な朝食を楽しもうと、私はキッチンのコンロに
火をつけた。
 青空は益々深く、午後には微風が吹いた。
 その1日、私は期待通り、秋の色に輝く木々の中で過したのであった。

                             (風次郎)

 

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