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風次郎の『八ヶ岳山麓通信』 No192
日野春駅から眺める富士(080113)
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2008年1月15日
山を見て楽しむ車窓
風次郎
fuujiro@jcom.home.ne.jp
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晴れた冬の日を、八ヶ岳山麓の冷たく清い空気を吸って過ごしたあと、遅い
午後の列車に乗る。富士見から県境を越える幾つかのトンネルを過ぎて甲府盆
地へ下り始めるころの車窓は、丁度夕陽に照らされる山々を眺めることになる。
冬の夕映えは、山岳観光の人ならずとも、乗り合わせた者の眼を引き寄せず
には置かないほど美しい。
今日もその美しさに巡りあえて良かった。
よく冷え込んだ日に信州で冬の朝を迎えるのは実に気持ちが良い。その寒さ
につい朝方は身構えるのであるが、冷えれば冷えるほど晴れて、透明な空気は、
眼に入る風光を陽が昇るのに合わせて一段と輝かせて見せてくれるのである。
寒い一日だった。
東京から富士見へ列車で通うようになった頃から、私は帰りの列車に乗る前
に駅の一般跨線橋へ登って、八ヶ岳を眺めてから改札口を通るようにしてきた。
時間に余裕のあるとき、或いは時間に余裕を持たせて、さらにその先のコミ
ュニティーセンターを越えた丘に位置するわが母校『富士見高原中学校』まで
行き、講堂脇の土手から八ヶ岳を眺めてから帰ることも多いのである。
富士見からの八ヶ岳は、正面の西岳が大きく見えすぎるとか、阿弥陀岳も少
し大きすぎて、主峰の赤岳をやや隠してしまう難点もあるのだが、小さい頃か
ら見慣れている私にはこれが脳裏にある八ヶ岳の姿の基本形なのである。
西八つは茅野の玉川あたりから、東八つは野辺山駅あたりから、峰の居並ぶ
全体像が眺められ、そのあたりが通にとっては定番のビューポイントであるら
しい。
人それぞれの愛着は、どんなことに由来するかだけの問題で、大したことで
はない。山もそれぞれに認められる幾多の側面を持っているのだから――。
ついそんなことを自問自答しながら今日も列車に乗った。
いつものように私の乗った列車は空いていて、ホームで買い込んだブラック
のコーヒー缶を開けて飲みながら車窓の風景を追う。
この安堵感は何とも言い難い。
列車が山梨県に入ると、日野春駅あたりが丁度展望台のような位置にある。
真南、奥深い谷のように続く釜無渓谷の彼方に白い雪を纏って浮かぶ華麗な
富士の姿が山の端を傾いた陽に照らされて輝いているのだった。
「これは期待通りだ!」
他の乗客たちも口々に感嘆の声を上げ、喜びの表情を隠さない。
日が落ち始めているので、その右手に大きく聳える甲斐駒ケ岳は、北斜面が
日陰をになってより荒々しい凄みのある壁を見せ付けている。
眼を北に向ければ八ヶ岳連峰が、こちらはまだ夕陽に明るく照らされたまま、
権現岳が3峰を並べた姿で居座るさまを写している。ここでしか味わえないそ
の端然とした権現三峰は、その右に、雪の岩場を光らせて厳冬の峻険な稜線を
あらわす主峰赤岳さえも従えるごとく気高く夕陽を浴びているのであった。
さらに、車窓の東には広く裾野の森が続き、遠く金峰山がこれも雪を纏って
静かに盛り上がっていた。それに連なってぐっと手前の茅が岳まで、こちらは
雪も無く夕映えの姿で間近に迫っている。
今は故人となってしまったが、私が画の指導を仰いだ師は、「日野春あたり
でじっくりと山を描いて暮らしたい」と語っていたことを思い出す。
このパノラマを見て、今でこそ成る程と思う。
八ヶ岳を描きに何回も東京から車で山麓に来たのであるが、日野春近辺で描
いたことは無かった。
一緒に車で来るときは、ほとんど甲府から塩川沿いの道路に入り清里へ向か
うか、釜無の谷を富士見、諏訪の方へ向かうことになった。
おそらく、師の一人での写生旅は列車であったろうからこそ、この日野春あ
たりを取り上げたのであろう。
私も列車を使うようになり、八ヶ岳にとらわれて、中央線の山梨県側から南
八ヶ岳を見ることが多くなった。
南八ヶ岳は、横の広がりの少ない独立峰のような、まとまりのある山塊に見
え、私の脳裏にある八ヶ岳とはイメージの異なるものであり、何となく物足ら
なさを感じていたことは否めない。
であるが、南アルプスを眺めたり、富士を堪能したり他の多くの名だたる山
々とともに、360度の展望で眺められる列車旅を過ごせるこのあたりは心の
潤う通過点である。
言わずもがな、甲府から小淵沢にいたる中央線の車窓は山岳展望に優れたル
ートであるのだが――。
風次郎
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