五月の雪

今年は寒い冬だったのが、急激な春を呼ぶことになったようで、ゴールデンウィークの始まる山はいっせいに新緑の様相になった。
春が急激にやってくるのはよいが、急激となると気候は素直ではない。暖かい夏に近いような陽気かと思うと、突如として冬に逆戻りするような日もあるのだ。富士見から北、諏訪の盆地に至る八ヶ岳西麓は、5月3日夜から4日朝にかけて、遅い春雪に見舞われた。
3日朝、愛犬ナナとの散歩は、雪の散らつく富士見高原中学の昇降口に至る階段をのぼり、校庭を一周してから一の沢川沿いを登り、高原病院をまわって帰ってきた。ボタン雪だった。
「寒い朝だなあ」と思ったが、やはり春は春なのである。白く地上に舞い降りた雪は淡く消えていった。
そのあと、朝方のうちに諏訪市まで車を使うことになった。雪は7時過ぎには止んで、8時には空も明るくなっていた。諏訪へ行くということは海抜950mの富士見から、諏訪湖の高さ750mまで下ることになる。峠から盆地の中へ降りていくのだから、普通は富士見で雪が散ったぐらいでは盆地の雪にはならない。ところが、よもやと思ったのだが、茅野あたりまで行くと道路脇には3pもの雪が積もっていたのであった。
家々の屋根は真っ白。次第にガスが晴れ、見え始めた西山の山肌は、枯れ枝の陰に雪の白が、絣のように曇った風景になっているのである。
雪は確かに一帯に、富士見よりはるかに多く降った。それに、5月の雪とはめずらしい。
今年の陽気は普通ではない、素直ではないのだ。

諏訪から帰って富士見から眺める陽のあたる雪の西山も良かった。すこしばかり特徴のある丸いピークを見せている入笠山も、そこから続くように下るパノラマスキー場のスロープも真っ白くなっていた。
入笠山には,28日に雪渓の残る道を登ってきたばかりだったので、その日の登山道が、再びすっかり雪で覆われたことを想像した。
「おそらく、あのあたりではこの雪が残るだろう」と思った。
午後から、妻ハナの友人Y氏夫妻がその兄弟と4人で東京から遊びにきた。
「急激に春が来て、すぐに夏になっていく」という恒例の”語り”でおこなっていた地域の紹介を、彼らの到着と同時に表現を変えねばならなかった。
「突如、冬への逆戻りでしてね--------」と。

翌日には一行と一緒に、高遠の八重桜を見に行った。
私たちは車で往路、茅野から杖突峠を越えて行った。
高遠は、城跡のコヒガンザクラがあまりに有名だが、それは一週間以上前に終わり、今は、はなのやま公園の八重桜が丁度見頃なのだと聞いていた。
4日の午後から回復した天気は、5日も朝から好天で、再び急激に暖かい陽気となった。はなのやま公園はまさに満開の桜で賑わっていた。
そして、花の下で語らいと食事をした後、帰りは入笠山を越えて直接富士見へ戻るコースを選んだ。
長谷から高遠と富士見を結ぶ谷沿いに、山を越える古い街道がつづいている。
谷は西向きであるから、午後になると陽が余計に射し込んで道も明るい。若緑が美しく、殊に落葉松の芽吹きが、峰に向かって淡く季節の移りを伝えて続く中の道を走るのは気持ち良かった。
諏訪側との境界となる尾根まで、雪は全くなくなっていた。尾根から富士見へ向かう、入笠山と周辺の斜面にはさすがに5cmほどの雪があった。
「やはり1日では解けきれていないのだな――」
今日の入笠山の登頂は割愛して、湿原を歩いた。まだ冷たい風を感じさせる中で、水芭蕉が咲いていた。
そのあとの、下り道では標高1500m付近まで道路脇に雪を見た。

この雪は、今年の名残の雪になるだろう。                                   

                                                  (5.5 風次郎)